【君が想うよりオオカミ】    男女の間に友情という観念は成立するのかを描く小説       【TVブロ酢】           辛口、甘口でないスッぱい批評        【となりのレトロ】


by tencho77

君が想うよりオオカミ ♯5

無我夢中で走っていた。

走る勢いであたる早朝の冷たい風が、頬を伝わる涙の理由ではなかった。

ただひたすら走っていた。

彼女を助けることしか頭に浮んでない。

トートバッグからヤケドをしながら隠した、ポケットのカプセルを握りしめて···。


ほんの1時間程前···。

「時間があるようでない。早くカプセルを渡せよ。」

管理人、田戸の部屋で銃口を目の当たりにして、凍りついたように微塵も動けない。

殺される···。

自分の葬儀に参列、喪服で前進している身内や友人、知人の姿が頭の中をよぎっていた。

「カ、カプセル?なんの·····こと?」

押し殺された声で、このセリフを言うのが精一杯だった。

そのセリフを聞いても、鍵穴から覗いていた男は少しも動じない。
むしろ冷静が増したようだ。

「なら用はない。」

銃弾が左の頬をかすめていった。

反射的にうしろのめりになり、フローリングの床に叩きつけられるように倒れ込んだ。

田戸が鍵穴から覗いていた男の足首を虫の息で掴んでいたのだ。

ちょうど手の届くところに転がっている、鼻炎スプレーが視界に入っていた。

鍵穴から覗いていた男は、非情に冷静に虫の息の人間にとどめの一発を放ち、近づいてきた。

「けっ。手こずらせやがって。おまえの極楽はどこだ?ここだよ!」

2発目の銃声が鳴る前に、鼻炎スプレーを目に浴びせた!

鍵穴から覗いていた男がひるんだ隙に、背中で扉を押し倒し、外に転がり出た。


無我夢中で走っていた。
最寄りの駅、千日前駅に向かって···。

自宅は危険だろうか?とにかくできるだけ遠くに離れたかった。

恐怖感に襲われている自分と同じくらい、携帯が震えた。

『 東京事務所   パスワード 』

再び彼女からのメールだ。

「おかけになった電話は、電波の届かないところにあるか、電源が···。」

やっと気づいた。

彼女の携帯は電波が届かないか、電源が入っていないのだ。

なぜメールがくるんだ?
罠か···。

しかし、このメールとカプセル以外、今のところ他に手がかりが無い。

迷ってる暇は無かった。

東京事務所をとにかく目指すしかない。

千日前駅前広場までたどり着くと、見慣れたモノが視界に飛び込んできた。

ほんの2日前、思いきって購入した新車と同種の自転車だ。

嫌な直感がひらめき、ボディ部分を確認してみる。

『 SAMURAI 』

ラメペンでその名が記してあった。

キーチェーンは切断されたのだろう。
鍵も壊されている。

奴が、あの男が先回りしている···!

電車での移動手段をひとまずあきらめた。

レンタカーを借りるには所持金がとぼしい。

「ありがとう!恩にきる!」

車好きの友人に連絡をした。

「じゃあ、アメリカ村の三角公園、たこ焼き屋の前で待っているよ。」

痛み伴う背中、指、口を気にしながら歩きだした。

( あのメールは誰がどうやって···。 )

彼女の笑顔。
彼女の浴衣姿。
彼女と繋いだ手。

昨年ふたりで一緒にひやかした、『 えべっさん 』祭りの記憶を自然と想い起こしていた。

彼女のことがさらに心配になった。

頬をつたう、赤く滲んだ涙がちょっとだけ多くなった気がした。

しばらく公園で待っていると、『 甲賀流たこ焼き 』の前に車が止まった。
クラクションを短く鳴らす。

「あれ?ミラージュ乗ってたんじゃなかったっけ。」

「ああ、最近これに乗り換えたんだ。」

「じゃ、東京まで。」

「ったく。学生時代と変わんねぇな。」

どこかやさしい呆れた表情だ。

「超距離タクシーじゃねぇんだぞ。」

路上のゴミを吹き飛ばしながら、二人を乗せたティーダは早朝の心斎橋を走り抜けていった。



to be next ♯6





【 職人名 】 ※敬称略

 喪服前進

 鼻炎スプレー

 極楽はどこだ

 ミラージュ

 ティーダ乗り

【 小ネ単語 】

 『 SAMURAI 』
  おきゃん姐さんの実際の新車である自転車名。27インチ。

 『 甲賀流たこ焼き 』
  アメリカ村、三角公園そばに実際にあるたこ焼き屋。現在あるかは未確認。

【ストーリー】

 圭壱が大阪を脱出する第一歩を描いています。
 最初の「走っていた~」のくだりは、おきゃんさんのブログへのコメントから発生。
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by tencho77 | 2009-05-18 00:43 | 【君が想うよりオオカミ】