【君が想うよりオオカミ】    男女の間に友情という観念は成立するのかを描く小説       【TVブロ酢】           辛口、甘口でないスッぱい批評        【となりのレトロ】


by tencho77

君が想うよりオオカミ ♯7

( またこのパターン、遅刻かも···。 )

秋絵は通学のバスに乗りながら、少しあせっていた。

いつもは原付スクーター、ホンダのロードパル、俗称『 ラッタッタ 』で通学している。
レトロ感覚が好きで乗っているが、その年式の古さにたびたび故障する。
自宅前のバス停から通っている『 京都聖火女子高前 』まで、ゆうに30分はかかるのだ。

( 朝からおじいちゃんの特攻ばなし、長いんだもん···。 )

両親は仕事の都合で海外に在住、祖父と二人暮しである。

( あ。まだポンポン山の辺りか、どうしよう···。 )

祖父が大文字山のことを『 ポンポン山 』と呼んでいて、その呼称が頭に沁みついている。
有名な大文字焼きで、『 大 』の文字がポンポンと燃えさかるという言い伝えからだという。

( おじいいちゃん、速く死ねばいいのに。 )

いまどきの女子高生感覚なのはわかっていた。
痴呆がだいぶ進んできて、耐えられなくなってきていた。
昔は『 ハイパー源さん 』の異名を持つ、腕のいい寿司職人だったのに···。

「眠い。」

おもわずそうつぶやいた。
昨晩から今朝にかけて、無料体験お笑い系サイトにはまっていてほとんど眠っていない。
小さいアクビをしながら、窓の外を眺めた。

あきらかに急激なスピードのトラックが、映画のようにこちらに迫ってくる!

ドシャーン!

バスの運転手の反射神経むなしく、車体の横っ腹を少しえぐりながら、
トラックは賀茂大橋の欄干に激突して停まった。

バスの運転手は乗客を車外へすみやかに誘導した。

「痛いっ。」

バスを降りる時、壊れた扉の隙間に指を少し挟んでしまった。

( ついてないわ。やな感じ···。 )

乗客達は携帯で救急車や警察を要請している。

( 学校へ行かなくちゃ、遅刻だ···。 )

こんな事態に陥ってもなぜかその意識があった。

( トラックの運転手、どんな奴だろう···。 )

遅刻に輪をかけ指を痛めた元凶、トラックの運転手の顔を見てやろうと想った。
フロント左部分がまだ少し煙のくすぶっている、トラックの運転席に近づいた。

『 ヤマト急便 猫山 』

気を失っているそいつの名札にはそう記されている。
いずれ救急車がきて運んでいくだろう。
冷ややかな目で見ながら通り過ぎた。

指から血がそこそこ流れ出ている。

舌打ちをしながら、とりあえず鴨川の水で洗い流そうとそのまま橋の下に降りていった。

「うううっ。」

気味の悪いうめき声が一瞬聞こえた。

「だ、誰?」

返事がない、ただの屍のようだ。

と想い、通り過ぎようとした瞬間、草むらから足首を掴まれ転倒しそうになった。
ガラスでできた鳥のような心なので、叫び声をあげることすらできない。

「た、頼む、助けてくれ···。」

足首を掴んだ、身体じゅうにカスリ傷を負ったその男は蚊の鳴くような声で訴えていた。

とっさにカバンに入っていた部活用のアクエリアスを出して飲ませてやった。

カバンの校章や中の生徒手帳をじろじろ見られている。
あわててカバンのクチを閉めた。

「ありがとう。」

「早く救急車を···。」

携帯を持っている手を掴まれた。

「待ってくれ!」

「え?どうして、だってけっこう傷が···。」

「追われてるんだ···。」

「誰に?ひょっとして警察?」

「いや、違う。いやそうかな?」

「·····。」

「ニセモノの警官だったんだ。」

橋の下に隠れながら話す、身体じゅうにカスリ傷を負った男によれば、
大阪から東京に向かう途中、白バイのニセ警官に襲われ逃げてきたという。

「こ、これを預かってくれ···。」

「なんで?いやよ···。あ!」

強引にカバンのチャックを開けられ、小さなカプセルのようなモノをねじ込まれてしまった。

気味が悪かったので、とにかくその場を走り去った。

( あとで捨てよう···。 )

橋のほうを振り返ると、さっきの場所に近い土手に黒い高級車が停まっている。

( あの車、プレジデントっていうんだっけ···。 )

車からヤクザ風の男達が降りていったのが見える。

想わず足を止めて遠まきに見てみた。

身体じゅうにカスリ傷を負った男は、とらえられた宇宙人のように両脇を抱えられ、
プレジデントに乗せられていった。

( やっぱ捨てるのをやめよう···。 )

カバンのカプセルを手でたしかめながら、そう想った。





to be next ♯8




【 職人名 】 ※敬称略

 ボケラッタ

 ポンポン山

 ハイパー源さん

 どしゃーん

 ガラスのチキンハート

 プレジデント

【 小ネ単語 】

 バス通学
  実際にボケラッタさんがバス通勤しているところから発生。

 『 おじいちゃんの特攻ばなし 』
  ボケラッタさんの「ボケ」より。

 扉の隙間に指を少し挟んでしまった。
  実際にボケラッタさんに起こった不吉な予感のする悲劇。

 アクエリアス
  妖精のようにカバンから現れ、圭壱を癒してくれた飲み物。

 ( あの車、プレジデントっていうんだっけ···。 )
  同級生のえみが、たまに迎えに来てもらっているので、うっすらと車種を記憶している。

【ストーリー】

 ニセ白バイ警官(公安のkt刑事)に追われ、焦ってしまい、東京とは逆方向の京都でバスと激突。
 圭壱は別で追ってきた権田組に、拉致されてしまいます。
 
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by tencho77 | 2009-05-22 21:01 | 【君が想うよりオオカミ】