【君が想うよりオオカミ】    男女の間に友情という観念は成立するのかを描く小説       【TVブロ酢】           辛口、甘口でないスッぱい批評        【となりのレトロ】


by tencho77

君が想うよりオオカミ ♯15

「困ったな。狙撃できるビルが7棟もあると・・・。」

「ああ。あのカエルの逆立ちのような倒れ方だと、弾道の方向が特定できないんだよな。」

比企の『 ぼやき 』に、池袋はいつになく力の無い受け答えだ。
本庁主催の捜査会議を終えた、三人の心は疲れていた。
二年間も行方不明になっていた被害者を保護できず、最悪の結果を招いていた。
そのことを新宿東署に捜査本部をおいた、本庁のキャリア連中に責め立てられたのだ。
銃弾から、犯行に使われたライフルはM24系と推定されている。
有効射程距離800メートル。
狙撃できる可能性は現場の高層ビル7棟だが、三人ともビルの特定まではできなかったのだ。

「交通課への書面は私が作成しておきました。」

一番若手の赤池が、少しでも場を明るくしようと威勢よく話した。

「悪りーね。いろいろデリートしたい日だな。今日は・・・。」

PCには詳しい池袋もぼやいた。

「そうだ赤池、お前が東北のヤマをあらえ。」

「わかりました!」

一番若手の刑事は元気よく答えた。

「俺達はこっちをあらう。」

「私と池袋さん以来の、イケイケコンビ再結成ですね!」

「・・・。」

ライフルは軍事関連で、よく使用されている種類だ。
沖縄ルートも含めて、拘留中の店長に情報を得るため、比企と本庁へ戻ろうと考えた。


特注で改造されたボルボの覆面パトカーに乗り、二人は新宿東署を出発した。
比企がいつものカップコーヒーを飲みながら運転している。

「自宅の千葉から新宿まで大変だな。」

「ええ。まあ慣れました。」

公安としてマークしている身、マークされている身。
お互い牽制しながら、他愛も無い世間話を繰り返していた。

『 警視庁より入電、逃走中マル対、狙撃犯の所持品情報・・・。 』

警察無線が入る。

『 使用銃をゴルフバックに入れて逃走したとの情報有り、ゴルフバックの色は黒。
 メーカーはナイキ、本体横と持ち手にナイキロゴと英語でナイキゴルフ文字刻印入り。
目あたり注視されたし。 』

二人は目を凝らした。
博多中洲、新宿歌舞伎町、普段人の多い繁華街を相手にしている目は一層するどくなった。

「池袋さん、あれ。」

明治通り、千駄ヶ谷付近にさしかかったところだ。
コンビニの店内に宅配便を待っている無線情報と同じゴルフバックが目についた。
先の鳩森神社付近でUターンをし、店の対岸に車を停め、店内を再びみる。

「現場からも近いですし、ウラをとりましょう。」

「駐禁大丈夫だろうな・・・。」

「大丈夫ですよ。万が一の時は今度は私が、所轄の交通課になんとか交渉します。」

『 あやしい 』という表情で池袋は車を降り、比企も続いた。
通りを渡って店内に入る。

店内には『 パチスロ必勝ガイド 』立ち読みをしている男性客が一人いるのみだ。

池袋はレジへ向かった。

「タバコ、くんねぇかな。」

ポットのお湯を手際よく変えていた店員は、すばやくレジに戻ってきた。

「どのタバコですか?」

「まぁな・・・うーん、ラークの6ミリで。」

店員は手際よくタバコをレジに差し出した。
財布では無く、代わりに手帳を出した。

「ちょっとその集荷待ちのゴルフバックについて聞かせてもらいたいんだが・・・。」

「はあ?」

店員は不思議そうに二人を見た。

「なんでですか?」

笑顔でそう言うとタバコを棚に戻した。
目は笑っていない・・・。
刑事がすばやくチェックした名札には、『 佐間 』と表記してある。

「いや、ニュースでご存知かと想いますが、二時間前くらいに西新宿で事件がありましてね。」

「そこのゴルフバックとなんの関係があるんです?」

「いや店員さん、ゴルフバックがその事件にかかわっている可能性が高くてですね。」

慎重に言葉を選んで話した。

「わかりました。」

店員は入口付近のゴルフバックに向かう為、レジを一旦出た。

店員は自動ドアではない、入口扉の鍵を閉めた。

そしてゴルフバックのサイドポケットから拳銃を出し、二人の刑事に向けた。

二人の刑事はとっさに上着の内側に手を入れたが、一瞬遅かった。

無言のまま店員は、弾丸の出る口を二人に突きつけたまま歩き、レジの内側に戻った。

「そ、そんなことをしても逃げられないぞ。」

「それはどうかな・・・。」

店員はレジの下にある防犯用の非常ボタンを押した。

ベルは鳴り響かない・・・。

立ち読みをしていた男性客がただならぬ事態に気付いた!
雑誌を投げ捨て入口に向かって走り出した。

「ね、俺だけでも、た、助けてくれ・・・。ぐは!」

男性客は入口まであと一歩のところで足を撃たれ、のたうちまわっている。

店員を刺激しないように、ゆっくりと比企が苦しむ男性客を介抱した。

「大丈夫ですか。あなたお名前は?」

「うぅぅ。い・・つも・・・あだ名・・でしかよ・・ばれてないので・・・・。」

「あだ名は?」

「あだ名は・・・・・・痛い・・・うぅぅぅ。」

店内には男性客の悲痛な呻き声と、とてつもなく太い緊張の糸が張り詰めている。

「おまえが伯爵のリーダーを狙撃したのか?」

「さあね。」

「通行人が通報して、もうすぐに警察がくるぞ。」

新宿にほど近い千駄ヶ谷である。
いつ来客、または通行人が通ってもおかしくない。
中華料理店も隣接している。

「来ても無駄なようにしたのさ・・・。いずれすべて無くなる・・・。動くな!」

レジの下を少し覗き込むと、ダイナマイトに付いた数字が残り少ない時を刻んでいた。





to be next ♯15
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by tencho77 | 2009-06-26 21:14 | 【君が想うよりオオカミ】