【君が想うよりオオカミ】    男女の間に友情という観念は成立するのかを描く小説       【TVブロ酢】           辛口、甘口でないスッぱい批評        【となりのレトロ】


by tencho77

カテゴリ:【君が想うよりオオカミ】( 20 )

「ずいぶん長い取り調べだったなぁ。疲れだろう。」

名古屋中央署のエアコンが故障しているような蒸し暑いロビーで、仁科が待っていてくれていた。

「まあ疲れた時は甘いもんだ。食えよ。」

グルメリポーターでもある仁科が地元銘店のたい焼きを買ってきてくれていた。
こしあんがたっぷりと入ったそのたい焼きをパクパクと一気にほおばった。

「んんんんっ!」

「圭壱!大丈夫か!そんなに一気にくちにいれないほうがいい。」

今までのストレスを発散しようと馬鹿食いせずにはいられなかった。

新名古屋港へ沈んだプレジデントを爆発直前で飛び降りれたのは何故なのか、
京都でのトラックと路線バスの衝突事故での過失責任の追及など、
ある意味犯人扱いの取り調べという名の尋問。
くわえて大津SAで別れてしまったティーダ乗りの友人が未だ行方不明。
そして諸子にもうまく連絡ができていない・・・。

「少しは落ち着いたか?」

たい焼きをかじりながら、仁科は優しい目で声をかけてくれる。

「ああ。茂が来てくれて本当に心から助かったよ。イトゥは?」

「あれ?そういえば居ねぇな。帰っちまったのかな。」

やさしくしてくれる仁科が友人以上に好きだ。
異性の諸子に対する時とは違う、本来の自分としての恋愛感情だろう。

命を狙われるかのごとく自分にストーカーのようにつきまとった凶暴な男。
散々もめたあげく、その男は病院の屋上から飛び降り自殺をした。
そんな恐ろしいトラウマから解き放ってくれ、浅草で同棲もしてくれたやさしい元カレに
仁科をだぶらせていた。

「お、沖谷さん!まだ居てよかった。仁科さんも。」

縞リスのようにせわしなく慌てている磯辺警部が再び目の前に現れた。

もう網の中で捕まった虫のような取り調べはウンザリだ。

「まだ・・・なにか。」

「あなた達と同じ事務所の部寺穂香さん、当然ごぞんじですよね?」

「はい・・・。」

諸子とオーディションで決めた妹分、そして穂香を加えユニットとして
新しい活動を開始する矢先にスキャンダルにより事実上の引退。
体調を崩し、精神的なダメージも大きく地元の病院で療養入院中。
さっき取り調べで説明したばかりだ。

「つい先程から仙台署が身柄を拘束中です。」

「なぜ?」

「拳銃での殺人、および傷害の容疑です。」

「え?」

仁科と同時に警部へ聞き返していた。
耳を疑った。
事実だとしたら、普段あんなに温厚な穂香がなぜそんなことを。
歌手活動では、たまにファンキーでガッツのある人間という一面が垣間見えることもあったが・・・。
人を殺めるなど到底信じられない。
仁科も明後日の方向を向いて放心状態のようだ。

「どうやら事件を起こす直前に、携帯電話であなたへメールを送信しようとしていたようなのです。」

「私に?」

「ええ。結果的には未送信に終わってるようで、詳しくは仙台署が分析中ですが、
 不思議なのは、同じ芸能事務所の御諸木諸子さん名義の携帯電話から発信してるんです。」

パズルが少しだけ解けたような感覚が頭の中に生まれた。
ふと気になりポケットに手をそっと突っ込んだ。

(・・・ある。)

たしかにカプセルの存在がそこにある。

「部寺穂香さんの件についてもさらに詳しく聞かせて頂けませんかね。」

まゆげがくっつくほどに眉間にしわをよせた。
もう長い取り調べはうんざりだ。

「じゃあ、少しだけな・・・」

「大阪府警の磯辺警部、長時間の不当拘留で訴えますよ。」

会話を遮られた警部が振り返る先には、スーツ姿の長身の男が立っている。
その横にはイトゥもいる。

「申し遅れました。私は弁護士の戸祭と申します。」

圭壱も何度か名前だけは聞いたことはある。
戸祭の親から道プロの顧問弁護士で、今は二代目だ。
伯爵のリーダー失踪事件で、兄からの捜索願いにより当時うごいていた港署を、
法律を駆使して事務所へあまり家宅捜査をさせなかった実績を知っている。

「もう三時間以上の任意の取り調べではないですか。
容疑者でもない沖谷さんをこれ以上拘束するのは違法でしょう。」

「し、しかし・・・。」

部下を撃たれている警部はやりきれないという表情だ。
有無を言わさず戸祭は外へ向かって歩き出した。
圭壱は磯辺に一礼をして戸祭についていった。

「沖谷さん、すぐ事務所へ帰りましょう。」

「大阪に、ですか?」

「いえ、東京です。道屋社長は一刻も早く会いたがっています。」

「今から最終の新幹線に間に合いますかね。高速バスとかは疲れるし。」

圭壱を気づかって少し怒り口調で仁科が語った。

「大丈夫です。セントレア空港に自家用ヘリを待機させてあります。」

「自家用ヘリ!どっからそんなもの買える金が出てくんだ?だから俺らのギャラが安いのか!」

仁科の怒り口調はおさまらないようだ。

「俺も空港まで圭壱を送ってくよ。」

途中までだが、仁科がついてきてくれるだけでだいぶ嬉しい。
イトゥが戸祭弁護士を乗せて運転してきた社用車に乗りんだ。

( 昨日と今日は修羅場だったが、生きているだけましだ・・・。 )


空港へ向かう車の中で圭壱は何度も自分に言い聞かた。









to be next ♯21
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by tencho77 | 2010-02-28 23:57 | 【君が想うよりオオカミ】
『被疑者を追い、島へ上陸。島は横須賀市所有の猿島と思われる。』

猿島は東京湾に浮かぶ無人島。
日中は観光客で賑わうこともあるが夜は当然、暗闇が支配している。
その昔、軍事要塞として砲台などの設備が施されていた。
戦後は観光地として運営されていたが、1993年に閉鎖、航路も廃止され立ち入り禁止とされる。
空白の二年間を経て1995年に再開された・・・。

「猿島へ逃げ込んだか。海上保安庁に知れるとやっかいだな・・・。」

佐間を追っている比企からのメールを見て、池袋はつぶやいた。
仙台駅より元タレントの部寺 穂香を保護すべく、彼女の入院している病院へ向かっている。

( 赤池に先を越されただろうか・・・。 )

途中、宮城県警にはあえて立ち寄らなかった。
公安として機密に動いている部分が多いのだ。

芸能プロ社長、道屋の携帯から違法にデータを略取している立場もあった。
いつしか、一連の事件の真相解明にはデータの解析が急務との信念を持つようになっていた。
そのデータで解明されたリストの二人目が部寺 穂香だ。

東村山生まれの彼女は、大型新人歌手のふれこみでデビュー。
ファーストアルバム『 春ノウタ 』は、オモロッキーフライドチキンのCM曲や、
当時売れっ子の同じ事務所所属のメタル系バンド『伯爵』リーダーからの楽曲提供、
青柳ロキfeat. SoulJaとのコラボなどで瞬く間にミリオンセラーとなった。

しかし直後の御神体イベントで人気アイドルグループSMAPPY、徳薙つよしとの交際報道が
加熱しミュージシャンの道をあきらめ、グルメレポーターに転身。
そして職業病ともいえる食べ過ぎで激太りしてしまった。
その精神的ダメージからか、食べ物をいっさい口にいれないほど体調を崩し突然の引退。
現在は仙台より小一時間ほど離れた心療内科にひっそりと入院している。

「部寺さんは何号室ですか?」

病院の窓口へおもむろに手帳をみせ尋ねた。

「右側の棟、530号室です。先ほど・・・」

「!・・・先ほど・・・なんですか。」

「同じように刑事さんが尋ねて来ました。」

病院なので駆け上がるわけには行かなかったが小走りで向かった。

( やはり先を越されたか。)

こぶを何回か軽くゆっくりとスウィングさせた後、慎重にドアをノックした。

返事がない。すでに屍に・・・・・。

ドアを少しづつ開いた。

そこに彼女の姿は無かった。
トイレにでも行っているのか・・・。

すると下がってきたエレベーターから携帯でメールを打ちながら車椅子に乗った穂香が降りてきた。

「部寺さ・・・」

その時ちょうど、穂香を真ん中にした反対側に赤池の姿が現れた!

赤池は人を罵るような笑みを浮かべると、上着から銃を抜き、静かにゆっくりと構えた。
とっさに池袋も赤池に向かって銃を構える。

緊張した空間の中心に挟まった穂香は、まだ気付かずにメールを打っている。

「赤池!!」

病院であろうと、他の患者や職員が騒ごうと構わない。
池袋は怒鳴った。

「やっぱり私も消去しに来たのね!」
穂香が気付いて叫ぶ。


パスン!パスン!


消音銃の銃声が廊下に乾いた音で響き渡った。

「ぷ・・・・・あ・・・・ぐっ!」

苦悶の表情で赤池が前のめりに倒れる。

先程まで携帯だった穂香の右手の中身は、細い煙の靡く銃に変わっている。

「部寺さん!どこでそんなものを入手・・・」


パスン!パスン!




再び乾いた銃声が、病院の廊下を駆け巡った。










to be next ♯20
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by tencho77 | 2010-01-30 02:26 | 【君が想うよりオオカミ】
心地よい風が小さな傷を負った頬にあたっている。

どこか温度差を感じる、まったーりとした風だ。

あの原風景に想える紅蓮色背景の島。
その草原の土手に彼女と並んで座っている・・・。

b0179540_2014158.jpg

「なあ。あの野球選手とはその後どうなの?」

自分でもこの質問をしている理由がわからなかった。
そう、自分はゲイだ。
ノンケの男と女の関係だ。
なぜ気になる・・・。

「あら?もしかして妬いているの?」

彼女は八重歯がチラつく憎たらしいくらいの笑顔で聞いてきた。
彼女のことは友人、いやそれ以上の親友として好きなはず。

「いや・・・お前のマネージャーとして・・・。」

「マネージャーとして?」

彼女はくり返しきいてきた・・・意味深に。

「そ、そういう諸子はどうなの?」

「どうなの?って・・・。」

「・・・俺のことをどう想っている?」

「前にも言ったでしょ。ケイゴのことは・・・。」

大正モダンなカフェで熱く語った時に聴いた台詞の通りなのか。
その時のことを覚えていないふりをして聞き返した。

「前に言われたことって?」

「圭壱の存在なんか、なければいいのよ!」

そう叫ぶ諸子の姿は秋絵に変わり、鋭いナイフが胸に突き刺さった。

「んぐぐぐぐっ・・・。」

顔に無数の洗濯バサミをつけられた時とは比べものにならない
とてつもない痛みと苦しみに支配され、断末魔の叫びをあげた。
小さな何本もの滝が出来るように血が流れ出ているようだ。





「沖谷さん!沖谷さん!」

( はっ!ここは・・・。 病院か?)

こちらを覗きこんでいる顔が三つ。
背景は二列にきれいに並んだ緑の木々だ。

名古屋白川公園・・・。
疲れ果て眠ってしまっていたようだ。
辺りはすっかり闇が支配している。

「ものすごいうなされていたぞ。」

覗いている顔の一つが心配そうに言ってくれている。
名古屋ローカルの番組『 安陪教官日記! 』のレポーター、同じ事務所の仁科 茂だ。

「あ、こちらは大阪府警の警部、磯部さん。連絡を受けて一緒に来たんだ。」

覗いている顔のもう一つ、やはり同じ事務所の俳優、イトゥが紹介した。

「ああ。悪夢にうなされてた。しかし・・・あの島は・・・。」

「島?」

警部が尋ねてきた。

「いいえ。夢の中のことです・・・はっ!伊保さんは?」

自分を置いて時限爆弾付のプレジデントで走り出した伊保 沼太郎はどうなったのだろう。

警部は首を静かに横に振った。

「新名古屋港湾から車輌の残骸が引き揚げられています。

 残念ながら・・・絶望的かと・・・。

 芸能人である弟さんに関しては追悼集会が行われる予定と伺っています。

 ドライバーだった組員は指名手配をかけている最中です。

 近くの署でお身体の治療と、いろいろ詳しく話しを聞かせて下さい。」

ある程度覚悟はしていたが、ショックで立ち上がれない。
仁科とイトゥに抱きかかえられ警察車輌へ向かった。


一瞬イトゥの顔に、不敵な笑みが浮かんだように見えた・・・。




to be next ♯19
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by tencho77 | 2009-10-01 01:57 | 【君が想うよりオオカミ】
「了解しました。追跡します。」

Nシステムなどで既にキャッチした逃走宅配車輌を、
改造ボルボのカーナビは丸い溝のようなマークで示している。

( 首都高を南下か・・・。 )

伯爵のリーダーを射殺し、コンビニを爆破した逃走犯は外苑インターから高速にのったようだ。

『 比企刑事! 』

無線が叫んだ。
初めて聞く声だ。

「大阪府警の磯辺警部?どうしたんですか。」

磯辺警部は件の赤池刑事の概略を話した。

「では、池袋さんは東北へ飛んだんですね。」

「ああ。マル対の沖谷という男性も、滋賀の大津SAに置き去りにされたティーダ。
そこまでは足取りがつかめているのだが。」

「消されてなければいいんですが・・・。」

港署勤務の時代から刑事のカンで、デカいヤマとにらんで追ってきた。
芸能プロダクション、道プロの裏。
メタル系バンド『伯爵』のリーダーの捜索願をその兄から受理したのが、
ついこのあいだのように想えた。
歌舞伎町の風俗に流れた、道プロくずれのホステス、ホストにもあたっている。
手がかりを逃すわけにはいかない・・・。

磯辺警部は引き続きマル対を追跡するといい無線を切った。

カーナビの追跡マークは首都高横浜羽田線を横浜に向かっている。
湾岸線に入り、同じく横浜へ向かった。
首都高横浜羽田線と湾岸線は平行にはしっている高速道路だ。
逃走宅配車輌に気づかれぬように赤灯を点けてないため、渋滞を避けるためだ。
先回りして待つ意図もある。

マークは大黒埠頭出口を降り、18番突堤付近で停止している。

改造ボルボも追うように大黒埠頭出口で降りた・・・。


「足がむちゃくちゃ痛てぇよぅ。」

「ちっ!うるせーなあ。お前がもたもた立ち読みなんかしてっからよう。」

「だってあんなに早く、ゴルフバックで嗅ぎ付けてくるとは・・・痛てぇ。」

ゴルフバックの中には解体されたライフルが入っている。

「島へ行く前に病院に寄ってくれねぇか・・・兄貴・・・。」

「うるさい!じゃあここで降りろよ!」

と叫びながらコンビニの店員兼、爆破魔は逃走宅配車輌から飛び降りた!

コントロールを失った逃走宅配車輌は突堤から海上へ落下した。

「ぎゃあああぁ!助けてくれー!兄貴ー!」

あだ名で呼ばれる男性は海中へゆっくりと沈んでいく窓から叫んでいる。
足を撃たれているので、うまく脱出できない。

冷酷なテロリスト店員はうしろを振り返ることなく、予め用意してあったバイクに乗り走り去った。


( あの男は・・・。)

改造ボルボの運転席から、インディレースのように障害物を避けるバイクが遠めに見えた。
先の海上には、必死でもがいているあだ名で呼ばれる男性が目に入った。

すかさず飛び込み、あだ名で呼ばれる男性を引き上げた。

「大丈夫ですか!」

・・・返事がない。

「ただの屍になっちまったのか!」

そう叫びながら、気を失っているあだ名で呼ばれる男性の頬を叩いた。

「あいつは・・・佐間は・・・。」

耳元で話を聞きながら携帯の指は119をまわしている。

「・・・観音崎から・・・島へ・・・。」

「おい!・・・おい!」

・・・返事がない。

再び男性は気を失ってしまったようだ。

ほどなく到着するであろう救急にあとを託し、急いでバイクの行き着く先に向かった。

再び高速にのり、横浜横須賀線を観音崎方面へ改造ボルボを走らせた。

観音崎に近いインターチェンジを降りる頃にはすっかり闇が舞い降りていた。
海辺の観音崎公園の駐車場。
その横にある、つぶれたレストランの脇にバイクが停めてある。

改造ボルボから降り、海辺に向かって静かに歩く・・・。

海面を唯一の灯台の明かりが、薄暗く照らしている。
遠目にプレジャーボートの影と音を察知した。

( 奴だ・・・。 )

とっさに辺りを探した。
停泊中の漁船が数艘目に入ったが、これでは間に合わない。
ちょうど一仕事終え、寄港したての屋形船を見つけた。
船の腹には『松川』と書いてある。

手帳を見せ、船を借りた。
一般人を巻き込まないように操縦方法を即興で教わリ単身出発した。

飲み込まれそうな薄暗い海。
少し緊張した表情で逃走犯のあとを追い、島ヘ向かった。








to be next ♯18
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by tencho77 | 2009-08-07 21:24 | 【君が想うよりオオカミ】
「そろそろ通報を受けた所轄が来るぞ。無駄な抵抗は・・・。」

「うるせー!どうせ俺も用が済んだら消されるんだ・・・。」

こうちゃく状態とはこのことだ。
コンビニのレジだが、店員は片手に爆弾のスイッチらしきもの、片手に拳銃を所持している。
同時にダイナマイトに付いた数字も、残り少ない時を刻んでいる。

池袋の視線はテロリストと化した店員と睨みあっていた。
比企は足を負傷した名前のない男性を励ましている。

「消される?誰に?」

池袋がそうきり出した時に、定時集荷の宅配便車輌が店舗前に停まった。

「その男をこっちへよこせ・・・。」

店員は比企に向かって要求した。

「か、代わりに俺が人質になる!」

「だめだ!どうせ変な小細工を考えてんだろ、おめぇらは。」

早くしろと言わんばかりに店員は、レジ前のガム棚に向かって数発発砲した。
宅配便の運転手は身の危険を感じ、その場から少し離れた所へ走り去った。
震える携帯で必死に警察へ通報しているようだ。

「早くしろ!」

今にも親指でスイッチを押しそうだ。
これ以上店員を刺激すると、店ごと四人は吹き飛んでしまう。
仕方なくあだ名で呼ばれている男性を店員に引き渡した。

「これは置いてってやるよ。」
爆弾のスイッチを挑発的にレジ上に置いた。
しかし、二人の刑事は人質を考慮し下手に動けない。

あだ名で呼ばれている男性に銃を突きつけ、ゴルフバックをかつがせる。

なにもできない悔しさを噛み締めている二人の刑事を横目に、不適な笑みを浮かべた店員は
宅配便車輌に乗り込んだ。
あだ名で呼ばれている男性に、足を負傷しているにもかかわらず運転させ発進した。

逃走車輌を見送る、長く感じる一瞬が過ぎた。

「比企さんは奴を追ってくれ!こっちは俺が・・・。」

比企はうなずきながら飛び出し、改造ボルボに乗り込み発進した。

遠くには警察車輌のサイレンが聞こえはじめている。
自然と顔をつたう嫌な汗。
手でぬぐいながらレジ下を覗き込む。

( 爆処理を呼んでいる時間は無いか・・・。)

残り時間10分を切ったデジタル表示を見ながら携帯をかけた。

「本店、公安の池袋です。緊急コード6です。磯辺警部を。」

すぐに呼び出した相手にかわった。

「池袋刑事。久しぶりだな、ちょうど連絡しようとしてたところだ。」

「え?」

「まあそれはあとだ。緊急コード6とのことでどうした。」

「はい。ダイナマイト式時限爆弾と今、格闘してます。爆処理は間に合わないのです。」

「配線はどうなっている?」

「オレンジ、赤、ピンク、青の順で各1本、あいだに白2本です。」

「白2本を切って並列にしてみてくれ。」

売り物のカッターの封を明け、慎重に白い線を切り、指示通りにつなげた。

静かな時が一瞬流れる。
特に何も変化は起きない。
ダイナマイトに付いた数字は残り少ない時を刻み続けている・・・。

「何も起きません。」

「だとするとそれを止める手段は無い・・・。」

店舗の前にはパトカーが数台到着した。

「付近を非難させろ!」

外に飛び出した瞬間、店舗は轟音を立て吹き飛んだ。
あたり一面隣接する建物のガラス片で埋め尽くされた。

「おい!大丈夫か!」

道に転がった携帯の向こうで聞こえる、怒鳴っている警部の声。

「大丈夫です。巻き添えの一般市民もいないようです。」

( 畜生!ここは平和な日本だ・・・。 )

ガラス片で多少切り傷を負った手で携帯を拾い、悔しさと湧き出る怒りをこらえながら応えた。

「マル対は所轄の比企刑事が追ってます。で、警部からのお話しとは?」

「以前から君が内定捜査中の道プロの件だ。」

「ちょうど先ほど、部下の赤池を手がかりが掴めそうな東北へ出張に行かせたとこです。」

「その赤池が捜査している道プロのタレント、御諸木諸子の自宅アパートから変死体が
発見された。」

「は?赤池からそんな報告は受けてないです。変死体というのは?」

「害者は管理人の田戸という男性。深夜の騒音の苦情を言いに訪ねた坂石という、
同じアパートの住人から通報が府警にあったのだ。」

「どういうことですか?」

「坂石からも事情聴取をしているが、昨夜マネージャーの男が訪れた際に何かあったらしい。」

なぜだ。
赤池は気づかなかったのか・・・。

「しかも・・・。」

磯辺警部を言葉を詰まらせた。

「しかも・・・なんですか。」

「しかも、害者は銃殺されている。赤池刑事の弾痕データと照合が一致した。」

池袋は野球のノックを一気に100本受けるほどの衝撃を受けた。

嫌な予感がし瞬時に想った。

( 部寺 穂香が危ない・・・。)





to be next ♯17
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by tencho77 | 2009-07-24 20:31 | 【君が想うよりオオカミ】
「困ったな。狙撃できるビルが7棟もあると・・・。」

「ああ。あのカエルの逆立ちのような倒れ方だと、弾道の方向が特定できないんだよな。」

比企の『 ぼやき 』に、池袋はいつになく力の無い受け答えだ。
本庁主催の捜査会議を終えた、三人の心は疲れていた。
二年間も行方不明になっていた被害者を保護できず、最悪の結果を招いていた。
そのことを新宿東署に捜査本部をおいた、本庁のキャリア連中に責め立てられたのだ。
銃弾から、犯行に使われたライフルはM24系と推定されている。
有効射程距離800メートル。
狙撃できる可能性は現場の高層ビル7棟だが、三人ともビルの特定まではできなかったのだ。

「交通課への書面は私が作成しておきました。」

一番若手の赤池が、少しでも場を明るくしようと威勢よく話した。

「悪りーね。いろいろデリートしたい日だな。今日は・・・。」

PCには詳しい池袋もぼやいた。

「そうだ赤池、お前が東北のヤマをあらえ。」

「わかりました!」

一番若手の刑事は元気よく答えた。

「俺達はこっちをあらう。」

「私と池袋さん以来の、イケイケコンビ再結成ですね!」

「・・・。」

ライフルは軍事関連で、よく使用されている種類だ。
沖縄ルートも含めて、拘留中の店長に情報を得るため、比企と本庁へ戻ろうと考えた。


特注で改造されたボルボの覆面パトカーに乗り、二人は新宿東署を出発した。
比企がいつものカップコーヒーを飲みながら運転している。

「自宅の千葉から新宿まで大変だな。」

「ええ。まあ慣れました。」

公安としてマークしている身、マークされている身。
お互い牽制しながら、他愛も無い世間話を繰り返していた。

『 警視庁より入電、逃走中マル対、狙撃犯の所持品情報・・・。 』

警察無線が入る。

『 使用銃をゴルフバックに入れて逃走したとの情報有り、ゴルフバックの色は黒。
 メーカーはナイキ、本体横と持ち手にナイキロゴと英語でナイキゴルフ文字刻印入り。
目あたり注視されたし。 』

二人は目を凝らした。
博多中洲、新宿歌舞伎町、普段人の多い繁華街を相手にしている目は一層するどくなった。

「池袋さん、あれ。」

明治通り、千駄ヶ谷付近にさしかかったところだ。
コンビニの店内に宅配便を待っている無線情報と同じゴルフバックが目についた。
先の鳩森神社付近でUターンをし、店の対岸に車を停め、店内を再びみる。

「現場からも近いですし、ウラをとりましょう。」

「駐禁大丈夫だろうな・・・。」

「大丈夫ですよ。万が一の時は今度は私が、所轄の交通課になんとか交渉します。」

『 あやしい 』という表情で池袋は車を降り、比企も続いた。
通りを渡って店内に入る。

店内には『 パチスロ必勝ガイド 』立ち読みをしている男性客が一人いるのみだ。

池袋はレジへ向かった。

「タバコ、くんねぇかな。」

ポットのお湯を手際よく変えていた店員は、すばやくレジに戻ってきた。

「どのタバコですか?」

「まぁな・・・うーん、ラークの6ミリで。」

店員は手際よくタバコをレジに差し出した。
財布では無く、代わりに手帳を出した。

「ちょっとその集荷待ちのゴルフバックについて聞かせてもらいたいんだが・・・。」

「はあ?」

店員は不思議そうに二人を見た。

「なんでですか?」

笑顔でそう言うとタバコを棚に戻した。
目は笑っていない・・・。
刑事がすばやくチェックした名札には、『 佐間 』と表記してある。

「いや、ニュースでご存知かと想いますが、二時間前くらいに西新宿で事件がありましてね。」

「そこのゴルフバックとなんの関係があるんです?」

「いや店員さん、ゴルフバックがその事件にかかわっている可能性が高くてですね。」

慎重に言葉を選んで話した。

「わかりました。」

店員は入口付近のゴルフバックに向かう為、レジを一旦出た。

店員は自動ドアではない、入口扉の鍵を閉めた。

そしてゴルフバックのサイドポケットから拳銃を出し、二人の刑事に向けた。

二人の刑事はとっさに上着の内側に手を入れたが、一瞬遅かった。

無言のまま店員は、弾丸の出る口を二人に突きつけたまま歩き、レジの内側に戻った。

「そ、そんなことをしても逃げられないぞ。」

「それはどうかな・・・。」

店員はレジの下にある防犯用の非常ボタンを押した。

ベルは鳴り響かない・・・。

立ち読みをしていた男性客がただならぬ事態に気付いた!
雑誌を投げ捨て入口に向かって走り出した。

「ね、俺だけでも、た、助けてくれ・・・。ぐは!」

男性客は入口まであと一歩のところで足を撃たれ、のたうちまわっている。

店員を刺激しないように、ゆっくりと比企が苦しむ男性客を介抱した。

「大丈夫ですか。あなたお名前は?」

「うぅぅ。い・・つも・・・あだ名・・でしかよ・・ばれてないので・・・・。」

「あだ名は?」

「あだ名は・・・・・・痛い・・・うぅぅぅ。」

店内には男性客の悲痛な呻き声と、とてつもなく太い緊張の糸が張り詰めている。

「おまえが伯爵のリーダーを狙撃したのか?」

「さあね。」

「通行人が通報して、もうすぐに警察がくるぞ。」

新宿にほど近い千駄ヶ谷である。
いつ来客、または通行人が通ってもおかしくない。
中華料理店も隣接している。

「来ても無駄なようにしたのさ・・・。いずれすべて無くなる・・・。動くな!」

レジの下を少し覗き込むと、ダイナマイトに付いた数字が残り少ない時を刻んでいた。





to be next ♯15
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by tencho77 | 2009-06-26 21:14 | 【君が想うよりオオカミ】
「もう静岡あたりですか?」

「いいや。まだ名古屋だ、おバカだねぇ。あんた、うたた寝しはじめてたからね。」

運転手をしてくれている、骸骨のように頬が痩せこけた男は親しげに応えた。
いつしか、お互い身内を探し、助け出すという共通目標で心が通じていた。

京都から約二時間。
疲れもあり、景色が単調な高速道路から一旦降りていた。
解放された安心感も手伝い、車中眠らずいろいろ話してきた。
場をなごませるために、お下劣な話題にも付き合った。
ゲイの圭壱にとって、女性ネタはなんの変哲も無いどうでもいい話しだった。

「能人は仕事ではどんなかんじだった?」

「どうでしたかね。僕はアイドル系のマネージャーなので、バンド系の弟さんとは
 事務所や現場でほとんど一緒にならなかったので···。」

「そうか···。」

ハンドルを握る手はしっかりしているが、残念そうに少しうつむきかげんになった。

「あ!そういえばここ名古屋で、弟さんと一緒に仕事したことあります。」

「おお!例えばどんな?」

「料理番組の『 安陪教官日記! 』ってやつです。全国ネットでは、たまにスペシャルでやる···。」

「ああ、あのレポーターの安陪が、グルメ教官とか言ってインチキくさいやつね···。」

「そう!料理がまずくて弟さん、その他大勢と一緒に頑張って、ブラックジョーク言ってましたよ。」

「あの番組、マニアックでシュールな料理ばっかり紹介だもんな!」

そう言って、顔面がまだ少し痛かったが大きく笑った。
運転手も笑った。
こみあげてくる、いままでのつらさを紛らわすように···。

「じゃあ、名古屋地元の番組でも見てみるか。」

カーナビの画面を、ガイドマップから適当なテレビ画面に切り換えた。

テレビを眺めながら運転手と一緒に笑っている。
でも心の中はけして笑っていなかった···。

ティーダ乗りの友人、田戸さんはどうなっただろう。
警察は動いているのだろうか。
ニセ警官には襲われたが···。
何もかも信用できない。

やはり気がかりなのは彼女のことだ。
マネージャーという仕事として。
親友として。

異性には特別な感情は湧いてこない。
同性には、心の底からこみ上げてくる『恋愛』というモノサシの感情をいつも推し量ってしまう。

ただ、彼女に対しては、いつもと違う何か不思議な感覚が溢れ出してくる。
彼女のことはもちろん好きだ。
でもそれは、嫌いではないという意味だけでの『 好き 』ではなかったか···。

トゥルトゥル!

携帯が鳴った。
我に返ったような表情で携帯の画面を見つめた。

『 道屋社長 』と表示されている。

何度か着信があったが、監禁されている時以外でも、わざと出ていない。
ほぼ丸一日音信不通、『 クビ 』の宣告か。
小刻みに震える指で受話器の外れたマークを押した。

「···はい。」

「おう、沖谷君か!いままでどうしてたんだ。」

あまり語りたくなかった。
『 東京事務所   パスワード 』というメールでそっちに向かっていることも。
無言のまま携帯を耳にあてている。

「まあいい、実は·····。」

通話の相手がそう切り出そうとした時、運転手の断末魔の叫び声が聞こえた。

運転手の見つめるテレビ画面を見ると、

『 ニュース速報 ロックバンド伯爵のリーダー 伊保 能人さん(24)新宿で銃で撃たれ死亡 』

と残酷なテロップが流れている。

言葉につまり、何も話しかけることができない。
二人を乗せたプレジデントは白川公園沿いに急ブレーキで停車した。

「お、沖谷君!」

「いまテレビのニュース速報で見ました···。伯爵のリーダーのことですよね。」

「違うんだ!」

「なにが違うんですか!こんな時にわざわざ私の解雇連絡ですか!」

言いようのない怒りがこみあげてくる。
八つ当たり気味に口走ってしまった。
無断欠勤によるクビは確定か···。

「ま、まだ権田組のプレジデントに乗っているのか?」

「·····はい。」

「く、車には爆弾が···。」

「え?」

道屋社長はインプラントの手術をしたばっかりで、滑舌が悪くよく聞き取れなかった。

「爆弾が仕掛けられてんだよ!その車には!」

大声で怒鳴るその声は携帯から漏れ、涙を滝のように流している運転手にも聞こえた。

「そ、そんな社長!本当ですか!」

通話がよく聞こえるように、うるさいテレビ画面をカーナビに戻した。

『 00:21:07』

時計のような表示の数字が、時間を逆に刻み続けている···。

運転手と、一瞬にして強張った表情を見つめ合った。

「権田の逆恨みだ!ま、万が一、敵に特攻する時の為の自爆装置だそうだ。」

「どうやって止めるんですか!」

「そんなの、し、素人にはわからん。とにかく車から逃げろ!」

圭壱はすぐに社外に飛び出した。

「沼太郎さん!早く!」

涙を滝のように流している運転手は降りようとしない。
無言で助手席のドアを勢いよく閉めた。

「伊保さん!なにしてるんすか!早く!」

「弟の元へ逝く···。」

「だめです!沼太郎さん!弟さんの分も···。」

「あんたは彼女を探し出せ、絶対に。」

車外へ引きずり出そうと運転席側に走り寄った。
伊保 沼太郎はキーをロックしてしまい、ドアは開かない。

「伊保さん!伊保さん!開けろ!」

右手が伸びきってしまうくらいの勢いで車は走り出した。

「伊保さーん!」

霞んだ小さい黒い点になっていく、プレジデントを眺めながら叫び続けた。

なにも話さず道屋との携帯を切り、かけ直した。
かけ直した相手はすぐに出た。

「プレジデントの自爆装置の解除方法を教えろ!」

「なんのことやら。夕飯の焼きカレー作りで忙しい。せいぜいあがけ。じゃ。」

人間とは思えない冷酷なセリフを浴びせられ、かけ直した相手にすぐに切られた。

「馬葉ーーーーーーーーーーーー!!」


叫びながら耳の遠くで、爆発音の響きを聴いたような気がした···。






to be next ♯15


【 職人名 】 ※敬称略

 トゥルトゥル

【 小ネ単語 】

 

 福岡で書類受け渡しのすれ違い事件
  実話のようです・・・。書類は『ボケて本』のようです・・・。

 手に持っていたスタバのコーヒーカップを投げ棄てた。
  みる挽きさんの以前のプロフ画像イメージから。

 「 ふなーーーーーーーーーーーーーーーー!!! 」
  たまに、はくしゃくさんがチャットで叫んでた!?

 カエルの逆立ちのような
  はくしゃくさんの伝説のボケ
 
【ストーリー】
  池袋刑事は赤池、そして所轄の比企と合流、伯爵リーダーを発見しますが・・・。
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by tencho77 | 2009-06-19 21:09 | 【君が想うよりオオカミ】
「見てわかるでしょ!駐車禁止だよ!」

みなし公務員二人のうち、運転手の姿を見つけた一人が顔を赤らめて近づいてきた。
もう一人は黙々とデジカメで車輌の撮影をしている。

渋谷駅前、スクランブル交差点横。

運転手は何も言わず、スーツ上着内ポケットから少しだけ身分証明書を見せた。

「あ!失礼いたしました。覆面なんですね・・・。す、すぐに取り消します!」

デジカメで車輌の撮影を終え、カーナビのようなマシンに入力をしていた相方の手を止めに行った。

「池袋さん。やっぱ東京のこのへんは駐禁きびしいですね。」

「最長どのくらいまで駐禁にならずに路駐できるかなぁ。」

「最長?駐禁に時間の長さは関係ないんじゃ・・・。」

「お前を迎えに駅のそばまで来たのが間違いだな。」

「だって、ひじは痛むし、このわたくし赤池、滋賀県辺りからほとんど徹夜なんですよ。」

右腕には痛々しく包帯が巻かれている。
トラックのドアを思い切り開られのぶつけられので、できた打撲だ。

「でも新幹線で爆睡だったんだろ。かっこつけて白バイなんかで追うからだよ。」

「駅まではマル対の自転車を拝借して追っかけて、行きつく先は新快速と予想していたんです。」

疲れを見取り、目で合図をし車輌の中へ入った。

「車に乗ったとの目撃情報が大阪府警から入って、巡回で駅前交番にパトが無くて白バイを・・・。」

そこまで話すと赤池は小さくため息をついた。
いきさつを話して少し楽になったようだ。

「どうする?赤灯つけるか?」

「置きますか。駐禁されちゃいますしね。」

車輌の頭にちょこんと赤灯を置き、目撃情報のあったセンター街へ向かう。
公安のいつもおおっぴらに捜査できない、もどかしさにイラつきながら・・・。

「これだけ人がいると、きっとかえって目立たないんだろうな。」

「メタル系バンドの奴って、普段から派手な格好じゃないんですかね?」

「さあ、知らんけど。とにかくふたてに別れて探そう・・・。」

センター街の北と南から探し始めた。
渋谷で15時、さらに人が増え始める時間帯だ。

二人がセンター街の中心でおち会った頃、警察無線がイヤホンから伝わってきた。

「聴いたか?」

「はい。新宿のようですね。」

車輌に戻るとフロントガラスに黄色い紙が貼ってある。
点数を減らされたくなければ、罰金を支払うよう書かれている。
赤灯をいい加減にちょこんと置いていた為、盗まれてしまったようだ。

「やれやれ。つくづく治安の悪い街だな。」

「あとで私のほうから交通課へ言って、取り消してもらいますよ。」

二人が乗った中途半端な警察車輌は明治通りから新宿方面に向かった。


現場近くのアルタそばに着くと、所轄の刑事とおぼしき人物が一人待っていた。
待ちくたびれたのか、手にはしわくちゃになったスタバのカップコーヒーを持っている。

「遅かったな。赤池。」

「すいません。渋谷で赤灯パクられて、渋滞にハマってたんです。」

「おや?珍しいですね。」

想いもよらぬ何かを見つけた時の、悪意に満ちたような笑みを浮かべている。

「どうして福岡県警マル暴の、池袋さんがここに?」

「久しぶりだな、比企。福岡で書類受け渡しのすれ違い事件依頼だな。」

福岡潜伏捜査での肩書きは、暴力団対策係だ。
主に中洲や長浜の、いわゆる『 ショバ 』を巡る権力抗争を担当している。

4ヶ月程前、新宿歌舞伎町のテキヤがこの権力抗争にからんでいるとの情報があった。
管轄でもある新宿東署の比企が、その情報資料を持って福岡へ来たのだ。
電車移動の不具合を理由にすれ違いで会う事ができず、いまだ情報資料を受け取っていない。

わざとすれ違いにしたのか・・・。

風営法をエサに、管轄内の風俗店、特に違法性の高いキャバクラなどから裏金をもらっているとの情報もある。
影で歌舞伎町をしきっているのは、この比企との噂もある。
公安部が最もマークしている男だ。

「池袋さん、ずいぶん痩せましたね。」

「ああ。」

いぶかしそうに返事をした。
夜は福岡で表向きはバーテンダーと暴力団対策。
昼は一週間に数回上京し、桜田門で打ち合わせ。
体重が110キロあった面影は今はない。

「そういう比企こそ、生活安全課じゃないのか。」

「まあね。マル対の兄から捜索願いを受けたのが俺なんでね。」

「なぜお前が?」

「当時六本木署勤務だったからね。マル対の発見情報もそこ系由。」

そういうと、手に持っていたスタバのコーヒーカップを投げ棄てた。
中身が少し残っていたらしく、路面には小さく薄茶色のしみができた。

警察無線が入った。
赤池が窓の外から手を伸ばして取る。

「マル対をアシベ会館近辺で発見との事です!」

三人は無言で目を合わせると次の瞬間、現場へ向かって走り出していた。


路上にはビラやチラシが舞っている。
ポンびきの声も夕刻に向けてさらに大きいようだ。
Tシャツにくたびれた革ジャンをはおり、顔面蒼白の男の存在は、この街で違和感はない。

息を少しだけきらした三人の目先には、痩せこけたかつての人気バンドのリーダーがあった。
まるで酒を飲んでいるかのような、ふらついた足取りでなんとか歩いている。

どうする確保するか・・・。
いや、騒ぎを起こしたくはない・・・。

三人はお互いに距離をおいて伯爵のリーダーに近づいていった。

あまり人気の無い路地で囲んで確保しようとした瞬間、

「 ふなーーーーーーーーーーーーーーーー!!! 」

突然叫んで走りだした!

あわてて三人はあとを追う。
歌舞伎町を出て、駅方面へ向かい線路下大ガードを抜け、都庁のある西新宿のビル街に入った。

ようやく三人は伯爵のリーダーを取り囲むことができた。

「伊保、能人さん・・・ですよね。大丈夫です、けいさ・・・」

プスン!

急に伯爵リーダーの左胸に小さな赤い円が描かれた。

地面に向かって崩れていくのが、スローモーションのようにみえた。

三人の追っていたマル対は、カエルの逆立ちのような格好になり・・・動かなくなった。






to be next ♯14

■こねたんの存在■
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by tencho77 | 2009-06-12 21:47 | 【君が想うよりオオカミ】
「なんか昔を想い出しますね。池袋刑事。」

「店長!その刑事ってのやめろ。なんかくすぐったい。」

警視庁の地下三階。
薄暗い特別犯罪対策課の取調室で二人は向き合っていた。

「ここが外部にも内部にも、情報がもれなくて一番安全だからな。」

池袋はうつむきかげんで煙草に火を点け、小さい溜め息をついた。

「おおっぴらに捜査できないのが歯がゆいですね。刑事。」

「だからこうしてお前に頼んだんだよ。本来ならハイテク課の仕事さ。」

二年程前から、福岡で潜伏捜査をしてきた。
沖縄の基地から武器が裏ルートで流出しているからだ。
福岡に所帯ももっている。

「軍での動作不良の武器、および部品が国内のヤクザに流れるルートはほぼ解明できた。」

「軍きっての戦士、大佐のシテメンコから表向き中古車屋の武器商人、有上にね。
俺はその商売はよく知らんけど。」

「データは芸能プロダクション社長、道屋の携帯SDに入っていたものだ。」

「いくら遊び人の社長からだって、池袋さん、データの入手方法って違法じゃん。」

一瞬、刑事の顔が怒りで赤くなったように視えた。
しかしすぐに落ち着いた表情に戻った。

「でも本当の目的はあの芸能プロが何をやっているか・・・。」

「あのバンドのリーダー『 発見 』ってあったけど見つかったんすか?」

「いや・・・。」

「強引に勧誘され、戸籍も抹消され、行方不明者にされてしまう新興宗教『 闇 』に無理矢理
入信させられ、僧侶にでもなってんじゃないの。」

「それは違う。別の潜入捜査で調べはついてる・・・。」

正直、手詰まりの感は少しあった。
実際に本人発見の手がかりはゼロに近い。

「仕方がない。解明されたリストの二人目にあたるしかないな・・・。」

「部寺 穂香でしょ。舌の魔法使いといわれるグルメレポーターの。」

「東北まで行かないとな・・・。」

道プロが人身売買もしくは、違法なドラッグを影で売りさばいているのはわかっている。
武器商人から拳銃を購入している権田組と密かにつながっていることも。
とにかく「人」を利用して何かをやっているのだ・・・。
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「東北に行く前に、私への報酬よろしくたのみますよ。」

「いくらだ?」

「金額じゃないんですよ、刑事さん。」

「と、いうと。」

「仲間を釈放してほしいね。」

「そ、それはできるかどうか・・・。誰のバイバイ(釈放)だ。」

「違法捨て看板名義でパクられた、富見曽だよ。」

「それは・・・・・できん。」

「いいんですか、情報の違法収集をバラしても・・・。」

「ウエと交渉する。」

そういうと、刑事は内線をかけた。
あっさりOKなのかすぐ受話器を置いた。

「さすが公安系列、話しがはやい。」

「・・・ああ。部下が手続きの書類をここへ持ってきて、お前に彼の釈放を証明するそうだ。」

池袋はうつむきかげんで煙草に火を点け、大きい溜め息をついた。
同時に携帯が鳴った。

「大丈夫なのか?え?もうすぐ東京に?ああこちらで策を練りたいのか・・・。」

次の瞬間、刑事の顔が驚きで赤くなったように視えた。

「伊保 能人が見つかった?渋谷か新宿?わかった、すぐ合流する。」

「おっと忘れないでくれよ。ここで待ってればいいのか?」

「今部下が来たようだ・・・。」

二人の若い刑事がそそくさと取調室へ入ってきた。

「さてと証明書を・・・。」

店長が立ち上がって書類を見ようとした瞬間、手首に冷たい金属の感触が伝わった。

「なっ!どういうことだ池袋刑事!」

「店長!個人情報保護法違反および恐喝罪で逮捕する。」

それは証明書ではなく、逮捕状だった。

「裏切ったなぁぁあ!」

断末魔の叫びが廊下の地下に空しく響いた。
店長はズボンのベルト、ネクタイを瞬時にはずされ両脇を抱えられ連行されていった。

見送る刑事の横顔はニヤニヤしているようだ。





to be next ♯13

■こねたんの存在■
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by tencho77 | 2009-06-08 19:38 | 【君が想うよりオオカミ】
「さあ、出庫の時間だ···。」

骸骨のように頬が痩せこけた男は、怯えきった運転手の若い男に命じた。

「さて、道案内を頼むぜ、ウヒヒヒ···。」

女子高生のえみを舐め回すような視線で攻撃している。
実家おかかえの運転手に拳銃を突きつけられ、指示に従って助手席に座るしかなかったのだ。

「ママはどうなったの!」

「どうなったっていいじゃない。早くクラスメイトの秋絵ちゃん家まで連れてってくれよう。」

軽く舌打ちすると、えみは馬葉に車を出すように命じた。

「家に居ないかも。いまごろ、まだバスに乗ってる頃よ。」

「じゃあ、秋絵ちゃん家近くのバス停で待ち伏せだあ。」

「······馬葉。小谷三丁目のバス停ね。」

怯えきった運転手の若い男はプレジデントを走らせた。

「この人達なんなの!」

「ぐへへへ。いちいちうるさい子だなぁ。あっしのことはどうでもいいじゃろ。」

と言いつつも、骸骨のように頬が痩せこけた男は自分のことを語りだした。

「ぼくのピーアールポイントは、弟が有名なメタル系バンド『 伯爵 』のリーダーということかな。」

自分は兄の伊保 沼太郎であること。
行方不明の弟を探しに、えみの実家、滋賀の権田組を訪れたこと。
道プロは権田組と裏で繋がっていて、非合法な手段で芸能界を牛耳ろうとしていること。
地元山梨のワイフと離婚してきたこと。

べらべらといやらしく語った。

えみは予想以上に落ち込んだ。
自分を女手ひとつで育ててくれた母は、真っ直ぐなヤクザだと思っていたからだ。
真っ直ぐなヤクザは合法的に稼ぎを増やしていく···。

「どうして秋絵に会いたいの?誘拐して売り飛ばすつもり?」

「ウヒヒ。いいや、弟を見つけ出す手がかりになるものを持っているようだからね。」

「着きました···。」

小谷三丁目のバス停が数メートル先に見える。
秋絵の姿は無い。

「では自宅に行くか。」

プレジデントを停め、三人とも降ろされた。

「逃げるなよ、運転手くん。」

周りを気にしながら秋絵の自宅へ向かった。

えみがインターフォンを鳴らす。


「どうしたの?えみ·····!」

秋絵は後ろにいる三人に気づいた。」

「おっとお静かに。」

拳銃を認識したようだ。
素早くえみと三人は中に入ってきた。

「この男がなにか預けただろ?」

「え、ええ。」

「どこにある。」

「気味が悪いんで棄てようと思ったけど·····大事にしまってあるわ。」

骸骨のように頬が痩せこけた男は『 はやくよこせ。 』という風に、手を差し出した。

「渡すわ。でも交換条件があるの。」

「なんだと!こいつが見えねぇのか。」

怯えきった運転手の若い男に突きつけた銃口を、少し女子高生に向けた。
全員、いやな汗が皮膚から噴き出している。

「その銃で、おじいちゃんを殺してほしいの。」

「·····?」


骸骨のように頬が痩せこけた男は『 理解できない。 』という風に、首をかしげている。
緊張という一瞬の沈黙が永く感じた。

「長生きしないだろうけど、長生きさせてみよう、ってクスリで無理に生かしてるの。」

「·····わかった。どこにいる。」

昼間でも薄暗い寝室には、腰の曲がった老人くらいの大きさに、掛け布団が盛り上がっている。

「ちょうど今ぐっすり寝てるわ。さあ。」

冷たい空間に、太陽のような明るい表情で女子高生は訴えている。

沼太郎の表情にはいっそういやな汗が溢れ出した。
銃口を布団の盛り上がりに向けた。
手首から先は、小刻みに振動している。

「さあ。早く···。」

「·····できない。銃声も近所に響くし···。」

「じゃあ貸して。あたしが。」

そういうと秋絵は拳銃を骸骨のように頬が痩せこけた男から受け取り·····

「あなたバカね。」

形勢が逆転した。
銃口は沼太郎に向けられた。

「これ以上、巻き込まれたくないから。」

カバンからカプセルを取り出し、えみを自分のそばに来させた。
布団をめくると、青い魚のぬいぐるみが置いてある···。

そしてカプセルを顔中爪のような痕だらけの男へ向かって投げつけた。


( 東京まで行ける···。 )

助手席が空席となったプレジデントは、京都市内を走っている。

運転手の頬は骸骨のように痩せこけている。

怯えていた若い男は、女組長の娘に引き渡した。

神社や寺が窓ガラスに映る。

( 彼女との御神体イベントを想い出すなぁ···。 )

じんじんと痛む顔面は、安心して少しだけ笑顔になった。




to be next ♯12

■こねたんの存在■
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by tencho77 | 2009-06-03 21:14 | 【君が想うよりオオカミ】