【君が想うよりオオカミ】    男女の間に友情という観念は成立するのかを描く小説       【TVブロ酢】           辛口、甘口でないスッぱい批評        【となりのレトロ】


by tencho77

カテゴリ:【君が想うよりオオカミ】( 20 )

「ふぁぁぁ。ねむい・・・。」

生物学を説明する声が、延々とお経のように聴こえてくる・・・。
「講義を開始する!」と言われてから、チャイム直前の今まで。

( 学長の授業はいつも変なテンションなのよね・・・。 )

うとうとしながら、時々指先が痛むので熟睡まではいかなくてすんだ。

目覚めのチャイムが鳴った。

「ねぇ、今日どうする?秋絵。」

クラスメイトのえみが満面の笑みで聞いてきた。
なにか裏があるのだろうか。
今日はテスト前でもう授業はない。

「学食でランチしてかない?」

「うーん。眠い。しばらく立ちた~くない。」

「何じぃっとしてんのよ。行こうよ!」

えみは男っぽく、強引なところがある。
そういうところも好きだ。
ぐいぐい自分を引っ張っていくタイプのえみ。
親友の一人だ。
1LDJのえみ宅に何度も泊まりに行ったこともある。
少し離れた神戸から通っている。
この歳で未婚の母であるからということを知っている。

背中に天使のようなタトゥーがあることも・・・。

帰宅してからランチ、試験勉強のコースが大半なので学食はすいている。

えみは何か聞きたくてしょうがなさそうだ。

「ねぇ。こないだ、たまたまふらりと行った、瀬須月高校の文化祭で好きな男できたんでしょ?」

「は?あんな関白宣言みたいな男子高に、いい奴いるわけないじゃん?」

「えー。ほんとー?だってマサオとよさげだったじゃん。」

「ありえない!だっていまどき、俺、キムタクみたいだろなんて、自分で言ってんだよ。」

「いやー。案外お似合いだよ、マサオ。」

「次、マサオって言ったら殴るからね。」

「おおこわ。なに食べる?」

「ラーメンだべ。やっぱ、あまりおなかすいてない。マフィンでいいや。」

「私もダイエット中だから、特製サラダでいいや。ついでにマフィン、買ってきてあげるよ。」

独りになると考えてしまう。
朝のあの男はどうしただろうか・・・。
警察に通報すべきか、さんざん迷った。
巻き込まれたくない。
気になるしウザい。

「どうした?ぼーっとして。マサ・・・おっと。」

えみは竹のボールに入った糸こんのようなサラダとマフィンを運んできた。

「また言ったでしょ。」

ううん、と首を振ってサラダをつつきだした。
こしあんの入っている、学食特製のマフィンを気力無くゆっくりと食べた。

「どうしたの。秋絵らしくないね。いつもお菓子なんかすぐ食べちゃうのに。」

どうしても今朝の出来事が頭から離れない。
まるで頭脳に警察がいるようだ。
えみの話していることは耳に入らず、身振り手振りだけが最初に目につく道化師を見ているようだ。

「じゃあ、帰って本格的にランチしよう!」

半ば怒り気味のえみと学食を出て、バス停へ向かった。

「じゃあね、秋絵。」

「いいわね。運転手付きの高級車が迎えにくるお嬢さんは。」

「たまたまよ。今日のランチは実家でカレーパーティーだからよ。」



秋絵と別れた。

いつもバス停とは反対側の校舎裏に迎えに来てくれる。
バス停側の迎えだと、冷やかす連中がいるので嫌だからだ。

( マサオとてっきりもう付き合って・・・。 )

それより元気のない秋絵のことが気になっていた。
指の怪我はどうしたのだろうか・・・。
バイクで転倒?ちがう、今日はバス・・・。
不安そうな秋絵の横顔が心に挟まっている。

迎えの高級車が近づいてきた。

「ご苦労様。馬葉。ちょっと途中ふるぽんやによって・・・。」

運転手の若い男は怯えたような表情だ。

「おろろろろろろろろろろ。」

「どうした・・・・の・・・・!」

プレジデントを覗き込んだ。
後部座席に顔じゅう何か爪のような傷跡のある男と、骸骨のように頬がこけた男が乗っている!

運転手の若い男の腰のあたりに、骸骨のように頬がこけた男が拳銃を突きつけているようだ。

「ウヒヒヒ。太モモまぶしい女子高生のお嬢さん、早く乗ったほうが身のためだぜ。」




to be next ♯11

■こねたんの存在■
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by tencho77 | 2009-05-29 20:36 | 【君が想うよりオオカミ】
島影と瑠璃色の海だ···。

彼女と島らしきその丘で向きあっている。

「ケイゴは私のことどう思ってる?」

どう思ってるって難しい。一言では表せない。

親友として、少なくとも嫌いじゃない。

痛っ!

「私もケイゴのこと、好きよ。」

『 好き 』って、簡単に言うけど、好きの重さはどれくらい?

軽いのか。
重いのか。

わからない。

異性からの『 好き 』は、時に罪つくりだ。
受け身のほうは、送り手の君に対する

モーション
トーク
フィーリング

すべてを支配されてしまう。

痛っ!

同性からの好きはそれ以上だが·····。

君が···君が想っているより俺は···。

彼女が呼んでいる声が遠くに聞こえたような気がした···。

「ケイゴー。ケイゴー。」


冷っ!

「ずいぶん気を失ってたわね。」

視界不良の先には、着物を着た女性の姿がうっすら見えてきた。
極道の妻風だ。
頭から水を浴びせられたようだ。

「これだけやって、やっと目を覚ましたか。」

二十畳くらいだろうか、和室のようだ。
端にある座敷牢の中で両手首を縛られ、天井から吊り下げられている。
身ぐるみを剥がされていて、全裸だ。

プチッ!
痛っ!

女は顔に付けられてる、無数のせんたくばさみをツまんでとった。

「カプセルは失くしたの?」

「···はい。」

「誰かに渡したとか?」

プチッ!
せんたくばさみをツまんでとった。

痛っ!

早くココを逃げ出したい。

どこかに非常ベル·ボタンはないか···。

追い詰められ、もう頭の中には坊主の読経音が鳴り響いていた。

「そんなもの···知らない···。」

か細くそう受け答えるのが精一杯だった。

「だいたいこういう場面で言う台詞ね。」

仕方がないという表情で、極道の妻風女は息を吸い込んだ。

「やーーー!」

かけ声と共に、一気にせんたくばさみ全部をツまみ引き抜いた!

顔面に激痛を通り越した、熱さが襲った。
断末魔の叫び声をあげ、失神した。
座敷牢の木枠は小刻みに震えている。

「このくらいにしとかんと。あの社長うるさいからな。」

極道の妻風女は、ぼやいた。
もどかしいとばかりに、天井から縄を解いて降ろした。

「馬葉ー!」

「はい、組長。」

二十歳くらいの若い男が、素早く入ってきた。

「黄色いモノが、唇のそばに付いてるわい。」

「は!すいません。少し早い昼飯の焼きカレーを食ってたもんで···。」

「こいつを蒲団に運べ。」

「え?目当てのカプセルとやらを持ってないんで、
いつものように琵琶湖に棄てるんじゃ···。」

「いや、貴重品らしいからな、こいつは。」

絶対服従している若い男は、少し引き摺る格好で、顔面傷だらけの身体を運んでいく。

「丁寧に扱えよ。なんかあったら、権田組の恥だからな。」

「は!」

若い男はゆっくりと、奥に消えていった。

ゴッドファーザーのテーマが流れる。

女組長は携帯に出た。

「ああ、道屋さん。どうやら持ってないようです。やはり途中で···。」

電話の向こうの主は不満のようだ。

「大丈夫ですよ、伯爵の時みたいに失敗はしませんから。」

その時、若い組員が再び素早く入ってきた。

「なんや、どうした。血相変えて。」

「な、殴り込みではないんですが···。」

「どうした?」

「はい。弟の敵討ちにと、はるばる山梨から来たと言っていて。」

「はるばる?そんなに田舎人でもないがな。」

女組長はゆっくりと玄関に出向いた。

そこには骸骨のように頬が痩せこけた男が、
不敵な笑みを浮かべていやらしい目つきで、こちらを見て立っていた。




to be next ♯10

■こねたんの存在■
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by tencho77 | 2009-05-26 23:59 | 【君が想うよりオオカミ】
『 品名:マドロス 品番:9000 』

商品請求カードに記入して、受付カウンターに出した。

店員は「しばらくお待ちください。」と言って、奥からしばらく戻ってこない。

携帯が鳴る。

「もうOKか。わかった。」

店員が戻ってきて、カウンターの鍵を外し中へ通される。

秋葉原のゲームショップ『 GERUNIKA 』。
店内は所狭しとレトロ系ゲームが陳列されている。

カウンターの内側奥は、壁のように段ボールが山積みになっている。
中古として販売するために、買取ったゲームが入っているのだろう。
その段ボールの人1人ぶん通れるくらいの隙間から見える扉に向かった。

扉にほど近い段ボールのいくつかは、中に監視カメラが隠してあるようだ···。

店員がカウンターに戻ると、扉をノックした。

「やま。」

「さーん。」と笑いながら店長が迎え入れた。

「ベタな合言葉みたいなことすんなよ!面倒くさい。」

「まあまあ。そう怒んなさんな、池袋さん。」

店長は不適な笑みを浮かべて椅子に座った。

「今どき小学生でも、あんな合言葉ごっこしないぜ。」

あきれた表情で腰かけた。

「今日は福岡からですか?」

「ああ。徹夜状態でね。」

店長は、それは大変だというしぐさで冷蔵庫から、何本か茶を出してくれた。

表向きは主にファミコンを中心に、中古レトロゲームを扱っている。
その傍ら、裏で合法なモノは当然、違法なモノも含めてありとあらゆるモノを扱っている。
裏ブローカーとしても店長だ。

「途中までデータ解析は出来てる。」

「途中からを私に解析しろと、池袋刑事。」

「その呼び方はやめろよ!確かにそうだが公安だからよ。」

「捜査協力手当はでるんすか?」

「協力の結果によってだな。」

敵か味方か···。
どうせ金次第で変わるんだろう。

「とにかく時間もそんなに無い。これだ。」
店長は渋い表情で、USBをPCに差し込んだ。

「画面フリーズ後に出たファイルが、まずこれですね。」

画面には名簿、リストのようなものが表示されている。


 個体1 伊保 能人 ■■ A

 個体2 部■ ■■ 宮城 C

 個体3 ■■ ■■ ■■ F


「個体1、いぼ のうひと?」

店長は漢字に弱そうだ。

「いぼ のいと。メタル系バンド『 伯爵 』のリーダーだった男だ。」

「ああ、道プロの。道プロタレント、
ゆうすけサンタマリアぐらいしか知らないなぁ。」

虫食いお題のようなところを出現させようと、
慣れた手つきでハッキングのような解析が始まった。

 hayato 2438
 baggio 0326
 NKGW01

店長は次々と暗号のような入力を繰り返した。
出てくる情報を収集、編集した後、ピタリと入力を止めた。

「残念ながら、虫食いは埋まらないです。」

「やはりそうか。リンクするあと何データが必要だな。ひとつは見つけて大阪からくる予定だ。」

「でもこのファイルで、ひとつだけですが別記録データを引き出せそうです。」

店長はそう言うとゲーム機を一台棚から持ってきた。

「PCエンジン?飽きちゃってゲームをプレイか!」

「違いますよ。これはPX‐G900っていうデータ解析マシン。
違法だから、あんたら連中にわかんないような外ヅラにしてんの。」

だから商品請求カードにも呼び出す時はあんな暗号だったのか。
ほとほと店長の脳ミソは、小学生レベルの駄洒落だなと呆れていた。

PCエンジン、いや
PX‐G900をPCにつなぎ、起動させた。

画面は一瞬、暗くなったがすぐに戻り、
先程のリストでは無いデータが浮かび上がった。

「どうやら軍事施設からこの個体達に対するモノを手に入れてるようですね。」

「どこの軍事施設だ?」

「沖縄ですね。」

「買い主みたいなのはわかるか?」

「ええ、有上という武器商人です。私も少し知ってます。」

「少し?」

「ええ、軍の基地など裏からの武器横流しのプロ。祖父からで彼は三代目です。」

「軍側の協力者とかは?」

「いますね。たぶんこのシステメンコという人物。階級は大佐のようです。」

携帯が鳴った。

携帯からの報告を聴いて、おもいきりテーブルにパンチした。

「そんなに拳で叩かないで下さい!衝撃でマシンが壊れちまう。」
店長の嘆きはうわのそらのようだ。
目を閉じてうつむいている。

「どうしたんですか?」

「対象者に誤解されて、なかなかデータ入りUSBを渡してもらえず···。
あっち側に拉致された。」



to be next ♯9

■こねたんの存在■
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by tencho77 | 2009-05-24 02:03 | 【君が想うよりオオカミ】
( またこのパターン、遅刻かも···。 )

秋絵は通学のバスに乗りながら、少しあせっていた。

いつもは原付スクーター、ホンダのロードパル、俗称『 ラッタッタ 』で通学している。
レトロ感覚が好きで乗っているが、その年式の古さにたびたび故障する。
自宅前のバス停から通っている『 京都聖火女子高前 』まで、ゆうに30分はかかるのだ。

( 朝からおじいちゃんの特攻ばなし、長いんだもん···。 )

両親は仕事の都合で海外に在住、祖父と二人暮しである。

( あ。まだポンポン山の辺りか、どうしよう···。 )

祖父が大文字山のことを『 ポンポン山 』と呼んでいて、その呼称が頭に沁みついている。
有名な大文字焼きで、『 大 』の文字がポンポンと燃えさかるという言い伝えからだという。

( おじいいちゃん、速く死ねばいいのに。 )

いまどきの女子高生感覚なのはわかっていた。
痴呆がだいぶ進んできて、耐えられなくなってきていた。
昔は『 ハイパー源さん 』の異名を持つ、腕のいい寿司職人だったのに···。

「眠い。」

おもわずそうつぶやいた。
昨晩から今朝にかけて、無料体験お笑い系サイトにはまっていてほとんど眠っていない。
小さいアクビをしながら、窓の外を眺めた。

あきらかに急激なスピードのトラックが、映画のようにこちらに迫ってくる!

ドシャーン!

バスの運転手の反射神経むなしく、車体の横っ腹を少しえぐりながら、
トラックは賀茂大橋の欄干に激突して停まった。

バスの運転手は乗客を車外へすみやかに誘導した。

「痛いっ。」

バスを降りる時、壊れた扉の隙間に指を少し挟んでしまった。

( ついてないわ。やな感じ···。 )

乗客達は携帯で救急車や警察を要請している。

( 学校へ行かなくちゃ、遅刻だ···。 )

こんな事態に陥ってもなぜかその意識があった。

( トラックの運転手、どんな奴だろう···。 )

遅刻に輪をかけ指を痛めた元凶、トラックの運転手の顔を見てやろうと想った。
フロント左部分がまだ少し煙のくすぶっている、トラックの運転席に近づいた。

『 ヤマト急便 猫山 』

気を失っているそいつの名札にはそう記されている。
いずれ救急車がきて運んでいくだろう。
冷ややかな目で見ながら通り過ぎた。

指から血がそこそこ流れ出ている。

舌打ちをしながら、とりあえず鴨川の水で洗い流そうとそのまま橋の下に降りていった。

「うううっ。」

気味の悪いうめき声が一瞬聞こえた。

「だ、誰?」

返事がない、ただの屍のようだ。

と想い、通り過ぎようとした瞬間、草むらから足首を掴まれ転倒しそうになった。
ガラスでできた鳥のような心なので、叫び声をあげることすらできない。

「た、頼む、助けてくれ···。」

足首を掴んだ、身体じゅうにカスリ傷を負ったその男は蚊の鳴くような声で訴えていた。

とっさにカバンに入っていた部活用のアクエリアスを出して飲ませてやった。

カバンの校章や中の生徒手帳をじろじろ見られている。
あわててカバンのクチを閉めた。

「ありがとう。」

「早く救急車を···。」

携帯を持っている手を掴まれた。

「待ってくれ!」

「え?どうして、だってけっこう傷が···。」

「追われてるんだ···。」

「誰に?ひょっとして警察?」

「いや、違う。いやそうかな?」

「·····。」

「ニセモノの警官だったんだ。」

橋の下に隠れながら話す、身体じゅうにカスリ傷を負った男によれば、
大阪から東京に向かう途中、白バイのニセ警官に襲われ逃げてきたという。

「こ、これを預かってくれ···。」

「なんで?いやよ···。あ!」

強引にカバンのチャックを開けられ、小さなカプセルのようなモノをねじ込まれてしまった。

気味が悪かったので、とにかくその場を走り去った。

( あとで捨てよう···。 )

橋のほうを振り返ると、さっきの場所に近い土手に黒い高級車が停まっている。

( あの車、プレジデントっていうんだっけ···。 )

車からヤクザ風の男達が降りていったのが見える。

想わず足を止めて遠まきに見てみた。

身体じゅうにカスリ傷を負った男は、とらえられた宇宙人のように両脇を抱えられ、
プレジデントに乗せられていった。

( やっぱ捨てるのをやめよう···。 )

カバンのカプセルを手でたしかめながら、そう想った。





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■こねたんの存在■
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by tencho77 | 2009-05-22 21:01 | 【君が想うよりオオカミ】
『 折り返し連絡ください。 いそぎ東京に向かいます。 ケイゴ 』

車中、幾度となくメールを打った。
あいかわらず彼女の携帯からは、返信、応答がない。

「阪神から名神に抜け、東名でいいよな。」

ティーダを運転してくれている友人が言った。

「お、おう。」

どことなくぎこちない返事。
今までの出来事を話すか、話すまいか迷っている。
話したら、すぐ警察に通報されてしまうかもしれない。
いや、もう誰かが通報しているかもしれない。
奴も含めて・・・。

( 田戸さんはどうなっただろう・・・。 )

考えたくない。
心も現実も逃避行している。

腹が鳴ってしまった。

「途中のサービスエリア、大津あたりに寄っていくか。」

ティーダ乗りの友人は、東京へ行く理由をあまり深く尋ねてこない。
気をつかってくれているようだ。
所持金も無く、理由あって電車や高速バスで移動できないので乗せてくれ、と突然連絡した。
はじめ少し怪訝な声ではあったが、こころよく引き受けてくれた。

「そうだな!俺もあそこの名物定食たべてぇし。」

必死に明るくふるまった。

カーステから流れる好きなBGM、R&B系バラードが耳心地よい・・・。

♪WRECKS N EFFECT 『 Juicy 』
♪BOBBY VALENTINO 『 Slow Down 』
♪AVANT 『 4Minutes 』
 
景色は朝焼けしはじめた。


朝焼けか、夕闇なのかどちらかわからない。
紅蓮色背景の島影が頭に浮かんだ。
b0179540_2014158.jpg

どこか懐かしい原風景的な感覚だ。

逆光でよく見えないが、海は瑠璃色がかっている。
都会の汚い海とは違うようだ。
さざ波の音以外、あたりは静寂だ。
南のどっか・・・の島なのか。


「おい!着いたぞ。」

びくっと反応し、ダッシュボードに手をぶつけた。
少し眠っていたようだ。

「お。まずは期間限定出店中、『休す屋』の鎌団子でも食うか?」

「いや、先にメシにしよう。」

ゲイBARでのバイトが東京から来た客もいて忙しく、昨日の昼からなにも食べていなかった。

「じゃあ俺は名物、テンプラDX定食。」

ティーダ乗りの友人に先を越されてしまった。

「じゃあ、俺は・・・・・海老フライ定食でいいや。」

テンプラDX定食は名の通り、テンプラが種類と共に山盛りだ。
海老やイモはもちろんのこと、ブリやふなのテンプラまでもが盛ってある。
ティーダ乗りの友人はテンポよく食べはじめた。

「よく朝からそんなに食べれるな。サービスで付いてたそれも。」

「ああ、ひじきか。俺、ひじきは別腹だから。」

すきっ腹で急に好きな海老フライを、がっついてたいらげた影響か、また腹痛が襲ってきた。

「食ってる途中ですまん。手洗いに行ってくる・・・。先に車へ戻ってて。」

しょうがないなという顔で、友人はひじきをつつきながら見送っている。

別棟の手洗いからレストランに戻りながら、駐車場のティーダを見ると空席だ。

レストランの自分のいた席に目をやった。

友人がいない・・・。

食器も片付けてある。

2階から、琵琶湖が展望できるのでそっちへ行っているのだろう。
お土産売場などがある2階へあがった。

早朝なので人影はまばら、いい感じで琵琶湖を望めた。
琵琶湖に彼女の笑顔をオーバーラップさせ、ぼーっとしていた。

見覚えのある顔が一瞬、少し離れた視界の先にはいった。
その男は同じプロダクション所属、大阪事務所によくいる俳優だと思う。

( イトゥ?・・・・・なぜここに? )

いやな胸騒ぎしてきた。

イトゥに見つからぬよう、駐車場へ行って遠まきにティーダを見た。

左の前輪、右の後輪、共にパンクさせられているようだ。

高速道路のサービスエリア。
逃げ場がない・・・。

とっさに人の気配が少ない建物の裏手にまわっていた。

パンか何か食品の納品で、トラックが停車している。
サービスエリアへは高速道路を使わなくても一般道から納品できるようになっている。

( これの荷台に隠れて乗ってしまうか・・・。 )

無理だ。
そんなことしても、すぐにドライバーに見つかってしまう。
頭の中が真っ白だ。
思考回路がうまく働かない・・・。

突然、腕をつかまれた!

「こらお前。万引きか。」

右手に伝票を持ったドライバーだった。

動揺しながら必死に嘘をついていた。
友人にからかわれ、東京ヘ向かう途中でこのサービスエリアに置き去りにされた。
車の故障、けが・・・。

「ふ~ん。仕方がねぇ。乗せてってやるよ。そのかわり、俺の苦手な伝票を仕分けしながらだぞ。」

職人気質のドライバーは気前よく助手席に乗せてくれた。
万が一ドライバーに通報されても、事情を説明しそのまま警察に保護してもらおうと考えていた。

「俺は猫山ヒロトっていうんだ。おまえは?」

「お、沖谷ケイゴです。」

「普段は東京でコンビニの納品廻りだ。運がいいな、今朝は臨時便だぜ。」

トラックは名神高速を東へ向かった。
伝票の仕分けをしながら、猫山に感謝の言葉を何回も何回も繰り返した。
恐怖を忘れるかのように世間ばなしや東京のことを話していた。

「おっといけねぇ。」

猫山はトラックを路肩に突然止めた。

バックミラーに赤い光を点滅させた白バイが映っていた・・・。





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■Car Stereo BGM♪■&■こねたんの存在■
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by tencho77 | 2009-05-20 20:15 | 【君が想うよりオオカミ】
無我夢中で走っていた。

走る勢いであたる早朝の冷たい風が、頬を伝わる涙の理由ではなかった。

ただひたすら走っていた。

彼女を助けることしか頭に浮んでない。

トートバッグからヤケドをしながら隠した、ポケットのカプセルを握りしめて···。


ほんの1時間程前···。

「時間があるようでない。早くカプセルを渡せよ。」

管理人、田戸の部屋で銃口を目の当たりにして、凍りついたように微塵も動けない。

殺される···。

自分の葬儀に参列、喪服で前進している身内や友人、知人の姿が頭の中をよぎっていた。

「カ、カプセル?なんの·····こと?」

押し殺された声で、このセリフを言うのが精一杯だった。

そのセリフを聞いても、鍵穴から覗いていた男は少しも動じない。
むしろ冷静が増したようだ。

「なら用はない。」

銃弾が左の頬をかすめていった。

反射的にうしろのめりになり、フローリングの床に叩きつけられるように倒れ込んだ。

田戸が鍵穴から覗いていた男の足首を虫の息で掴んでいたのだ。

ちょうど手の届くところに転がっている、鼻炎スプレーが視界に入っていた。

鍵穴から覗いていた男は、非情に冷静に虫の息の人間にとどめの一発を放ち、近づいてきた。

「けっ。手こずらせやがって。おまえの極楽はどこだ?ここだよ!」

2発目の銃声が鳴る前に、鼻炎スプレーを目に浴びせた!

鍵穴から覗いていた男がひるんだ隙に、背中で扉を押し倒し、外に転がり出た。


無我夢中で走っていた。
最寄りの駅、千日前駅に向かって···。

自宅は危険だろうか?とにかくできるだけ遠くに離れたかった。

恐怖感に襲われている自分と同じくらい、携帯が震えた。

『 東京事務所   パスワード 』

再び彼女からのメールだ。

「おかけになった電話は、電波の届かないところにあるか、電源が···。」

やっと気づいた。

彼女の携帯は電波が届かないか、電源が入っていないのだ。

なぜメールがくるんだ?
罠か···。

しかし、このメールとカプセル以外、今のところ他に手がかりが無い。

迷ってる暇は無かった。

東京事務所をとにかく目指すしかない。

千日前駅前広場までたどり着くと、見慣れたモノが視界に飛び込んできた。

ほんの2日前、思いきって購入した新車と同種の自転車だ。

嫌な直感がひらめき、ボディ部分を確認してみる。

『 SAMURAI 』

ラメペンでその名が記してあった。

キーチェーンは切断されたのだろう。
鍵も壊されている。

奴が、あの男が先回りしている···!

電車での移動手段をひとまずあきらめた。

レンタカーを借りるには所持金がとぼしい。

「ありがとう!恩にきる!」

車好きの友人に連絡をした。

「じゃあ、アメリカ村の三角公園、たこ焼き屋の前で待っているよ。」

痛み伴う背中、指、口を気にしながら歩きだした。

( あのメールは誰がどうやって···。 )

彼女の笑顔。
彼女の浴衣姿。
彼女と繋いだ手。

昨年ふたりで一緒にひやかした、『 えべっさん 』祭りの記憶を自然と想い起こしていた。

彼女のことがさらに心配になった。

頬をつたう、赤く滲んだ涙がちょっとだけ多くなった気がした。

しばらく公園で待っていると、『 甲賀流たこ焼き 』の前に車が止まった。
クラクションを短く鳴らす。

「あれ?ミラージュ乗ってたんじゃなかったっけ。」

「ああ、最近これに乗り換えたんだ。」

「じゃ、東京まで。」

「ったく。学生時代と変わんねぇな。」

どこかやさしい呆れた表情だ。

「超距離タクシーじゃねぇんだぞ。」

路上のゴミを吹き飛ばしながら、二人を乗せたティーダは早朝の心斎橋を走り抜けていった。



to be next ♯6

■こねたんの存在■
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by tencho77 | 2009-05-18 00:43 | 【君が想うよりオオカミ】
「Girl, I'm Gonna Miss You···I'm Gonna Miss You···♪」

店内BGM
Milli Vanilli 『 Girl, I'm Gonna Miss You 』
が、だらだらとループしている。

「社長!起きてください。もう朝4時ですよ!」

カウンターに突っ伏して、いっこうに起きるようすがない。

( このまま『 寝オチ 』にして帰ってしまうか···。)

『 寝オチ 』とは、寝込んで起きない常連の客を置いて、あがってしまうこと。

地元の福岡、親不孝通りに店をかまえて2年になる。
SHOT BAR『 JAKE 』のマスターは困っていた。

「社長!道屋社長!!スジャーター!!!」

「ん?」

社長は頭をあげた。
ネコのようなといってもいいほど、せまいひたいに跡がついている。

「すまん、すまん。福岡進出にうかれて、呑みすぎてもうたわ。」

「ずいぶんと中州からキャバ嬢、連れて来てましたよね···。」

「あすかとマミとみきてぃとあと誰やったかなぁ···。」

「ありすさん。みんな社長が寝て起きないから、帰っちゃいましたよ。」

「ほうか。なんか目覚ましになる、サッパリミント系のカクテルをおくれ。」

『 ラムネ色の海みたいな色をした、当店オリジナルカクテル 』
メニューにはそう書いてある。
b0179540_10251888.jpg















「はい、どうぞ。『 マリンジャム 』です。」

「おお、ええやん。池袋くんは東京には来ないのかい?」

社長は朝の定番、牛乳のような勢いで呑みほした。

「ええ。まぁ。社長は朝一番の飛行機で、東京に戻るんでしょ?」

「せや、こっちの人事についてと、緊急会議で六本木の本社に戻らんと。」

「緊急で会議ですか。芸能プロダクションってのは大変なんですねぇ。」

一瞬社長の表情がこわばり、暗くなった。
週刊誌が情報をリークしてきたのだ。
バーターで裏から金やら、グラビアアイドルなどを要求してきている。
絶対世間には露出してはいけない記事だ。
ましてや福岡に事業拡大が目前となっている今だ。
なんとしてでも阻止したい。

「ほな、帰ります。」

「まいどありがとうございます。」

社長は、自分と連れてきた4人のゲスト分をお釣り無しで気前よく払っていった。
『 領収書 』という魔法の書はつかったが···。

レジをしめ、社長を見送りだすと、その表情はニヤニヤしていた。

( 本当は一瞬『 寝オチ 』にしてたんだよな。)

シェーカーの中に隠してあった、小さなUSBを取り出し、軽いキスをした。

そしてまたニヤニヤした。

ゲスト達を見送ったあと、密かに社長の携帯電話から、
データを抜き取っていたのだ。

店の入口をきっちり閉め、ノートPCにUSBをさした。

特にロックやパスワードもない。

『 失踪中、メタル系バンド「伯爵」のリーダー発見!!』

間違いない、求めている情報の記事タイトルだ。
あの社長にとっては、ほろ苦ひ思い出だ。

『人気絶頂期の二年前に突然失踪した理由として、
 ドラッグや同じ所属事務所のタレントをレイ·····』

突然画面がフリーズした。

だが、そんなことはお構い無しに、相変わらずニヤニヤしている。

携帯が鳴った。

「ああ、計画通りだ。フリーズしてるが、これくらいなんとかなる。そっちは?」

電話の相手は少し焦っているようだ。

「逃がしたのか···。早く見つかるといいな。まあ府内にまだ居るだろうよ。」

電話を切り、ノートPCを流れるように操りだした。

「さてと。とりかかるか、伯爵データちゃん。」

いい加減、ループしているBGMを変えた。
「Welcome To The Jungle!nanana···♪」
Guns N' Roses 『 Welcome To The Jungle 』
が店内に鳴り響いた。




to be next ♯5

■こねたんの存在■
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by tencho77 | 2009-05-16 21:33 | 【君が想うよりオオカミ】
「午前3時、48分52・・・」

間違えて117を押してしまったようだ。

痛っ!

指にも軽い火傷をおってるようだ。

「はい。119番です!火事ですか?救急で···」

途中で切った。

大きい騒ぎにしたくない。
まだ予備軍とはいえ、アイドルを目指してている彼女の部屋。
そんなところからマネージャーの自分が救急車で運び出され···。

「なんで砕け散る・・・れろ・・・。」

くちびるが少し切れて、ろれつが廻らないままおもわずつぶやいた。

バラバラになったニンテンドーDSi

部屋には仙人が食べるような薄い霞っぽい煙と、
キナ臭い匂いが漂っている。

( とにかく部屋を出よう )

腰をおさえながらなんとか立ち上がり、
散らばっているニンテンドーDSiの部品を拾い集めはじめた。

人の居た形跡を残したくない。

何か入れる物は・・・。

フライドチキンファーストフード店のトートバッグ景品をみつけた。



拾い集めていくうちに、
ガチャポンカプセルみたいなモノが目に止まった。

ニンテンドーDSiの部品ではなさそうだ。

熱っ!

さっきの時報によれば、小一時間程気を失っていたことになる。
でもカプセルはまだ少し熱かった。

台所へ行き、鍋つかみでつかみとった。

「誰!そこで何をして・・・・・ケイゴ君?」

不意を突かれ、怯えた表情なった。

「ああ、管理人の田戸さん。」

少し安堵の表情に自然となった。
大家でもある管理人の田戸は、自分と彼女の関係を知っている。
知らない仲じゃない。

「き、傷とか、だ、大丈夫かい?」

「すいません、また腰を痛めて、少しヤケドもしちゃったみたいで···。」

「え!大丈夫か、うちで手当てして少し休もう。」

「・・・・・すいません。」

管理人、田戸の家は隣り合わせにある。
田戸に肩をかしてもらい、腰や手の痛みをこらえながら歩きだした。

「1階の坂石さんから、花火みたいな音がしたって、連絡があって。」

「バイト先の店で使うクラッカーが暴発しちゃって・・・。」

田戸はぎこちなくうなずいた。
深夜の暴発にちょっと動揺しているようだ。
ボビーオロゴンのような出で立ちの田戸は、
大正時代に建設された、この「さくら荘」を病弱な母に代わり、
ひとりできりもりしている孝行息子だ。

「すいません、お手洗いを・・・。」

田戸の部屋で安心したのか、疲れなのか、急に腹痛が襲ってきた。

大正モダン風なお手洗いの木製扉は、きちんと閉まらない···。

大正モダン風は彼女も自分も気に入っていた。
大正をモチーフにした、ハイカラな少女漫画が好きで、
ここに住んでいるようなものだ。
二人でハイカラな少女漫画について、
カフェで数時間も熱く語ったことがあった。
仲の良い普通の男女カップルに見えただろう。

そんな彼女との過去を思い浮かべていた。

ふと、なにか布が擦れるような、小さい物音が耳に入ってきた。

扉の隙間から覗いてみると、

田戸がトートバッグの中をまさぐっている!
無毛頭と額には冷や汗をかいている。

扉を開け叫んだ。

「田戸さん!何してるんすか!」

パスンッ!

次の瞬間、全部の糸が一瞬で切れた、あやつり人形のように、
田戸の体が崩れ落ちた。


サイレンサー付きの銃口が、こちらを向いている。


「時間があるようで無い、カプセルを渡せよ。」


不気味すぎる冷静な口調で、鍵穴から覗いていた男が語った。




to be next ♯4

■こねたんの存在■
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by tencho77 | 2009-05-14 21:01 | 【君が想うよりオオカミ】
「おかけになった電話は電波の届かない所にあるか、電源が・・・」
「只今留守にしております。ピーという発信音のあとに・・・。」

おかしい。
目の前にある彼女の住んでいるアパート「さくら荘」。
二階の彼女の部屋灯りは煌々とついている。
なのに携帯にも、家電話にもでてくれない。

居留守か・・・。
まだ駆け出しとはいえ、彼女はアイドル予備軍。
いっちょまえにストーカー対策とでもいうのか、雑誌記者対策なのか。
彼女のマネージャー修行中の身、いちおう盗賊・・・いや合い鍵は持っている。

( とにかく部屋に入ってみよう。 )

自転車を停め、足音を極力たてず階段を登り、ドアの前まで来て、
全身が凍りつくように立ちすくんだ。


鍵穴からこちらを覗いている若い男がいる・・・。


目だけ見えたその若い男はこちらに気づいた!

考えるヒマなどなく、合い鍵を使うと、おもいっきりドアを開けた。

若い男はまさに窓から、飛び逃げ寸前だった。

瞬間、足をつかもうと右手をつきだし、スーパーマンポーズ状態でジャンプした。

グキっ!

腰にヘルニアのような持病を持っている。
空き時間を駆使して、整体に通っている。
ギックリ腰みたいな感覚だ。
そのままうつ伏せに倒れこみ、動くことができない。

若い男はよろけながら、何かをポケットから落とし、窓から逃げ去っていった。

動けないうつ伏せ状態でいると、いろいろな思考が湯水のように浮かんでくる。

単なる物盗りではなさそうだ。
彼女の姿は確認できない、無事なのか。
それともここが別人の部屋で、オレ、ボケたのか。

ドアの鍵は閉まっていない。
こんな状態でさっきの物音で誰か来たらどうしよう。
女性宅に動けない男。
傍からみれば絶対、不審者扱いだ。
ゲイにとってこの部屋の雰囲気は自分の部屋と同じ感覚なのに。

本業での仕事関係者では、彼女だけにゲイであることを明かしている。

「私も、ケイゴのこと好きよ。」

彼女の口からこの言葉を聞いたあと、なんともいえない違和感があったのを覚えている。

同性としての『 好き 』。
親友としての『 好き 』。
唯一の理解者である、大好きな彼女に早く会って話したい・・・。

少し腰の痛みがひいた。
ふと、若い男が落としていった黒い物がやっと視界に入った。

ニンテンドーDSi・・・。

這いつくばり、冷や汗をかきながら指をめいっぱい伸ばすとなんとか掴めた。

何か手がかりがあるのか・・・。
ソフトは入っていないようだ。
開いて電源を入れる。
通常とは違う、不規則なマス目が13個表示されている、不思議な画面があらわれた。



とにかく指で画面のマス目をいろんな順番でなぞり、叩いてみた。

『 パスワード ■■■ ■■■■ 』



迷わず、彼女からのメール『 402 』と書いた。

・・・・・・・・なにも変化がない。

『 402 カプセル 』

・・・・・・・・なにも変化がない。
ただの屍のようだ。

しばらく考え、いろいろなキーワードを書き込んだ。
相変わらず、なにも変化がない。
本体を裏返してみた。
『 k.t 』というイニシャルのような刻印。
ふと、見えたタッチペンを抜いてみた。



『 Age of her birth 』

タッチペンに刻印されている!

『 402 1979 』

迷わず書き込んだ。
次の瞬間、奇妙な高い機械音と共に、ニンテンドーDSi本体から火花が飛び散り、


パーン!




to be next ♯3

■こねたんの存在■
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by tencho77 | 2009-05-12 16:28 | 【君が想うよりオオカミ】
「おかけになった電話は電波の届かない所にあるか、電源が···」

ちっ。

『 今日夕方人事部に急によばれて 』

そこまで打ってメールをやめた。
今日、仕事を定時であがってからもう6回目だ。

なんで連絡くれないん。

なんで返信こないん。

焦っていた。
福岡への転勤辞令が急に出たのだ。
その場でちょっと古くさいドラマのように、
辞令の書を破り捨てようとも思った。

「おーい!こーいち姐さーん。」

「はーい。今いきますう。」

沖谷 圭壱。
本業としては芸能プロダクションに勤め、
夜は道頓堀のゲイBAR『ルイーダ』でバイトをしている。
不況のさなか働けるだけましだ。
『辞令の書は消えてなくなりました。』
にしなくて正解だ。

ただ唯一、理解者である同期の彼女と連絡をとりたい...。

「姐さん休憩長すぎ~。
いつもの社長からご指名が入ってるみたいよう。」

どこにでもライバル心丸出しの、
嫌みったらしい輩はいるものだ。
このバイト仲間もそのたぐいだ。

フロアに戻ると、大阪出張の際は必ず寄ってくれる、
いつもの社長が饒舌に毒舌を吐いている。

「ここは熟女、熟女、熟女、熟女、熟女ばっかりで、
時々女優がいるかどうかだな!」
茶色のサングラスに、チャップリンの被っているような帽子
の出で立ちの社長は、ガハハハと下品に笑っている。

「おう姐さん、最近どう?」

月並みな社交辞令的な質問だ。
もう飽きていた。
でも指名料は馬鹿にならない。
我慢だ。

「なんか、うちのプロダクション、
おかげさまで最近儲かってるみたいでえ。
そうそう、事業拡大であたしも福岡に転属なのよ!」

「おお!そりゃ残念だなぁ。福岡か。
いいよなあ、こっちは無料体験お笑い系サイトの運営。
一銭のカネにもなんねぇし。」

そう言うと、いつもの社長は一気にジントニックを飲み干した。

「芸能プロっちゅうのは、そんなに儲かるんかね。
他に何かサイドビジネス...いや、なんか裏でやってんじゃないの~?」

「もう社長ったら酔って、」

携帯の震度が3くらいだ。

「うちのプロダクションなんか
まだまだ弱小集団だからやっとよ。」

携帯の震度はすぐに0となった。

「もうそろそろあがりなの。
ごめんね、東京ボケてβ代表取締役社長。
またね、ちゃおー。」
ライバル心むき出しの輩と交代し、
更衣室、ロッカールーム代わりの物置へそそくさと引っ込んだ。

彼女からのメールだ。
『カプセル 4 0    2』

カプセルホテルの402号室のこと?
何にしろ謎のメールだ。
普通じゃない。

突然、大凶のおみくじを引いた後のような、
嫌な胸騒ぎが込み上げてきている。
うちのプロダクションは確かに急成長。
でもその影でバーター裏取引の犠牲になっているタレントもいると、
業界内の噂も多い。

( 彼女のアパートに行ってみよう。 )

店を出て、自然と自転車のペダルを漕ぐスピードが速くなっていった。



to be next ♯2

■こねたんの存在■
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by tencho77 | 2009-05-10 00:37 | 【君が想うよりオオカミ】