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【君が想うよりオオカミ】    男女の間に友情という観念は成立するのかを描く小説       【TVブロ酢】           辛口、甘口でないスッぱい批評        【となりのレトロ】


by tencho77

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「ずいぶん長い取り調べだったなぁ。疲れだろう。」

名古屋中央署のエアコンが故障しているような蒸し暑いロビーで、仁科が待っていてくれていた。

「まあ疲れた時は甘いもんだ。食えよ。」

グルメリポーターでもある仁科が地元銘店のたい焼きを買ってきてくれていた。
こしあんがたっぷりと入ったそのたい焼きをパクパクと一気にほおばった。

「んんんんっ!」

「圭壱!大丈夫か!そんなに一気にくちにいれないほうがいい。」

今までのストレスを発散しようと馬鹿食いせずにはいられなかった。

新名古屋港へ沈んだプレジデントを爆発直前で飛び降りれたのは何故なのか、
京都でのトラックと路線バスの衝突事故での過失責任の追及など、
ある意味犯人扱いの取り調べという名の尋問。
くわえて大津SAで別れてしまったティーダ乗りの友人が未だ行方不明。
そして諸子にもうまく連絡ができていない・・・。

「少しは落ち着いたか?」

たい焼きをかじりながら、仁科は優しい目で声をかけてくれる。

「ああ。茂が来てくれて本当に心から助かったよ。イトゥは?」

「あれ?そういえば居ねぇな。帰っちまったのかな。」

やさしくしてくれる仁科が友人以上に好きだ。
異性の諸子に対する時とは違う、本来の自分としての恋愛感情だろう。

命を狙われるかのごとく自分にストーカーのようにつきまとった凶暴な男。
散々もめたあげく、その男は病院の屋上から飛び降り自殺をした。
そんな恐ろしいトラウマから解き放ってくれ、浅草で同棲もしてくれたやさしい元カレに
仁科をだぶらせていた。

「お、沖谷さん!まだ居てよかった。仁科さんも。」

縞リスのようにせわしなく慌てている磯辺警部が再び目の前に現れた。

もう網の中で捕まった虫のような取り調べはウンザリだ。

「まだ・・・なにか。」

「あなた達と同じ事務所の部寺穂香さん、当然ごぞんじですよね?」

「はい・・・。」

諸子とオーディションで決めた妹分、そして穂香を加えユニットとして
新しい活動を開始する矢先にスキャンダルにより事実上の引退。
体調を崩し、精神的なダメージも大きく地元の病院で療養入院中。
さっき取り調べで説明したばかりだ。

「つい先程から仙台署が身柄を拘束中です。」

「なぜ?」

「拳銃での殺人、および傷害の容疑です。」

「え?」

仁科と同時に警部へ聞き返していた。
耳を疑った。
事実だとしたら、普段あんなに温厚な穂香がなぜそんなことを。
歌手活動では、たまにファンキーでガッツのある人間という一面が垣間見えることもあったが・・・。
人を殺めるなど到底信じられない。
仁科も明後日の方向を向いて放心状態のようだ。

「どうやら事件を起こす直前に、携帯電話であなたへメールを送信しようとしていたようなのです。」

「私に?」

「ええ。結果的には未送信に終わってるようで、詳しくは仙台署が分析中ですが、
 不思議なのは、同じ芸能事務所の御諸木諸子さん名義の携帯電話から発信してるんです。」

パズルが少しだけ解けたような感覚が頭の中に生まれた。
ふと気になりポケットに手をそっと突っ込んだ。

(・・・ある。)

たしかにカプセルの存在がそこにある。

「部寺穂香さんの件についてもさらに詳しく聞かせて頂けませんかね。」

まゆげがくっつくほどに眉間にしわをよせた。
もう長い取り調べはうんざりだ。

「じゃあ、少しだけな・・・」

「大阪府警の磯辺警部、長時間の不当拘留で訴えますよ。」

会話を遮られた警部が振り返る先には、スーツ姿の長身の男が立っている。
その横にはイトゥもいる。

「申し遅れました。私は弁護士の戸祭と申します。」

圭壱も何度か名前だけは聞いたことはある。
戸祭の親から道プロの顧問弁護士で、今は二代目だ。
伯爵のリーダー失踪事件で、兄からの捜索願いにより当時うごいていた港署を、
法律を駆使して事務所へあまり家宅捜査をさせなかった実績を知っている。

「もう三時間以上の任意の取り調べではないですか。
容疑者でもない沖谷さんをこれ以上拘束するのは違法でしょう。」

「し、しかし・・・。」

部下を撃たれている警部はやりきれないという表情だ。
有無を言わさず戸祭は外へ向かって歩き出した。
圭壱は磯辺に一礼をして戸祭についていった。

「沖谷さん、すぐ事務所へ帰りましょう。」

「大阪に、ですか?」

「いえ、東京です。道屋社長は一刻も早く会いたがっています。」

「今から最終の新幹線に間に合いますかね。高速バスとかは疲れるし。」

圭壱を気づかって少し怒り口調で仁科が語った。

「大丈夫です。セントレア空港に自家用ヘリを待機させてあります。」

「自家用ヘリ!どっからそんなもの買える金が出てくんだ?だから俺らのギャラが安いのか!」

仁科の怒り口調はおさまらないようだ。

「俺も空港まで圭壱を送ってくよ。」

途中までだが、仁科がついてきてくれるだけでだいぶ嬉しい。
イトゥが戸祭弁護士を乗せて運転してきた社用車に乗りんだ。

( 昨日と今日は修羅場だったが、生きているだけましだ・・・。 )


空港へ向かう車の中で圭壱は何度も自分に言い聞かた。









to be next ♯21
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by tencho77 | 2010-02-28 23:57 | 【君が想うよりオオカミ】